『ブギウギ』趣里が告げた「福来スズ子とその楽団」の解散 歌える喜びを見出した4年間
朝ドラ『ブギウギ』(NHK総合)第71話では、スズ子(趣里)が「福来スズ子とその楽団」の解散を団員たちに告げる。 【写真】「ラッパと娘」を熱唱する趣里 スズ子が一井(陰山泰)に声をかけ、福来スズ子楽団を結成したのは第45話。梅丸楽劇団が潰れて、スズ子が自分の歌を忘れかけていた時に、羽鳥(草彅剛)から招待券をもらって観た「茨田りつ子とその楽団」に触発されてスタートしたのが、福来スズ子楽団だった。梅丸時代からの盟友でもあるトランペットの一井をはじめ、ピアノの二村(えなりかずき)、ギターの三谷(国木田かっぱ)、ドラムの四条(伊藤えん魔)、マネージャーの五木(村上新悟)、付き人の小夜(富田望生)というメンバーで、歌うことのできる場所を求めて、全国津々浦々、慰問先を訪問していった。五木との別れ、現マネージャーの山下(近藤芳正)との出会いがありながら、この4年あまりの月日でスズ子たちは歌えることそのものに喜びを見出した期間だった。 戦争が終わってからの、再開コンサート以来、福来スズ子楽団には依頼が殺到。三谷や四条がしれっとほかの楽団と掛け持ちをしながら、スズ子の楽団に参加しているような、個人としても多忙な状況となっていた。実は一井や二村にも誘いが来ているという事実を聞き、スズ子は楽団の解散を決断した。 戦争で歌う場所がなくなり、苦しまぎれに楽団を結成した当時から世の中は好転している。「もうみんな好きな時に、好きな音楽で食べていける。ワテらはもう自由や!」と団員に話すスズ子の瞳は希望に満ちている。派手な衣装を着て、ステージを縦横無尽に駆け回る「ラッパと娘」のような自由だけでなく、一人ひとりの生き方もまた解放されていたのだ。「おおきに」と笑顔で感謝を伝えるスズ子の頬には涙が伝っていた。 「おおきに」という思いを持っているのはスズ子だけではない。一井、二村、三谷、四条もそれぞれスズ子の誘いがなければ、もしかしたらのたれ死んでいたかもしれない。そして演奏者としてのプライドが彼らにはある。スズ子が歌手として、日々歌と向き合っていたように、彼らには彼らだけのストーリーがあったはずだ。「俺たちは楽器鳴らして戦争を生き抜いた。引っ張ったのは福来君、君だよ」と告げる一井。スズ子の一滴の涙は、いつしか滂沱の涙に変わっていた。「どないしよ。急に寂しなってきた!」とリーダーらしからぬ言葉をスズ子が発して笑いが起きるのも、この楽団ならではの空気だった。公式SNSには、通称「ナンバーズ」との記念写真がアップされているが、その楽団としての絆は役を超えて俳優陣の間にも生まれていたのではないかと感じる。 スズ子は楽団は終わりにするが、小夜には付き人として、山下にはマネージャーとして、これからも仕事を頼むつもりだった。しかし、小夜が付き人を辞めると言い出す。アメリカ兵のサム・ブラウン(ジャック・ケネディ)に夢中な小夜は、人前で「ラッパと娘」を歌い嘲笑されたことで傷心していた。筆者もすっかり忘れかけていたが、そもそも彼女はスズ子のような歌手になるのが夢で、弟子にしてほしいと付き人を名乗り出ていた経緯がある。現実を突きつけられてしまったことが理由にあるように思えるが、次週の予告には髪が短くなった小夜が「これからはオレの人生だ」と涙ながらに話す姿が。 茨田りつ子を演じる菊地凛子が「プレミアムトーク」に登場ということもあり、今年初の“朝ドラ受け”が実現した『あさイチ』(NHK総合)で、鈴木奈穂子アナウンサーが「新章って感じですね、来週から」と話していた通りに、第16週「ワテはワテだす」からは新たな登場人物が続々と姿を見せる。その筆頭と言えるのが、棚橋健二(生瀬勝久)。歌だけでなく、女優デビューを果たすスズ子にとっての演技の師匠であり、「タナケン」の愛称で知られる日本を代表する喜劇役者。その「タナケン」の名は、第62話で坂口(黒田有)からすでに登場している。
渡辺彰浩