上野千鶴子さんと信田さよ子さんが講演と対談 女性の貧乏やDV被害は自己責任?
家族間の暴力は全部つながっている【信田さよ子さん講演】
日本広しと言えど、上野千鶴子を前座にできるのは私ぐらいです。DVについて話したいと思います。 がん患者は治療体験を「キャンサー・ジャーニー(がんの旅)」と呼びます。DV被害者も同じ。回復までのプロセスが長いんです。各駅停車で途中下車をくり返し、一度戻ったと思ったら列車が故障する。「ビクティム・ジャーニー(被害者の旅)」なんです。 ■「暴力を暴力として」 私は約20年前、内閣府DV加害者プログラムのワーキングチームの一員としてカナダのDV対策を学び、日本式の加害者プログラムを作りました。日本でどれだけのことができるだろうと思ったけれど、現在まで何もできていない。DV防止法で精神的DVが暴力だと認められるようになったくらい。加害者を逮捕することすらできないし、加害者プログラムに参加させる強制力もない。暴力を暴力として、適正な法的対処をしてほしい。私はずっとそう訴え続けています。 ■当事者の認識乏しく DVは加害者も被害者も、自己認識をするのが難しい。加害者は自分が被害者だと思い込んでいて、「俺を怒らせるな」と妻に言う。被害者である妻も、「自分が悪いから夫が暴力を振るう」と思う人が多くいる。夫の行為をDVと言えない女性にとって、被害を認めることは、ある意味“敗北”。DV夫を選んだのは自分だから、その選択を責任逃れするずるい行為だと思えてしまうんです。 2001年にDV防止法ができた当時、こうした被害者意識の錯綜(さくそう)が考慮されなかった。各地の婦人相談所では、殴られていたらDV被害者だと認め、シェルターへの入所、生活保護へとつなぐマニュアル対応が行われました。もちろん、一部の被害者にとっては迅速な介入なんだけど、殴る蹴るといったDVは氷山の一角。その下に性的DVや精神的DVが地層のように連なる。自分が被害者だと思えない人にとっては不十分な対応でした。 DVの本体は何か。「恐怖」だと思う。その恐怖は恐怖としてではなく、「緊張」として感じられる。夫が帰る時間が近づくと緊張が走る。食事の準備ができていないと夫は無言になり、時に怒鳴り、子どもにあたる。妻はその地雷を踏まないようにする-。この緊張こそ、DVです。 ■包括的な支援が必要 家族の間で起きる暴力はたった一つ、ということはほとんどありません。DVが起きた時、必ず面前DVの問題が起きます。 実はDV加害者も多くが幼少期、親のDVを目撃している。最近の加害者プログラムでは、過去に被害を受けたことで次なる暴力の加害者になったことを本人に自覚させる、というやり方が広がっています。 他にもきょうだい間虐待、これは兄から妹への性虐待などですが、これも両親間にDVがあることが当然の前提。母から子への虐待も同じ。子どもの問題は子どもの問題だとして見過ごされがちですが、実際は家族間の暴力は全部がつながっているんです。私の考える包括的支援とは、DVと子どもの虐待とを一緒に考え、被害者・加害者支援の連携をとること。これらがバラバラだと、しわ寄せは必ず子どもにいきます。 ◆のぶた・さよこ 1946年岐阜県生まれ。公認心理師・臨床心理士。原宿カウンセリングセンター(東京)顧問。日本公認心理師協会会長。日本におけるアダルトチルドレン、DV、母娘問題の第一人者。