『アポロ』『サウダージ』『アゲハ蝶』…音楽にほぼ興味がない80代女性を虜にするポルノグラフィティ 「物語を読むように聞こえる」歌とメロディーの世界
『サウダージ』はカラオケでリバイバルヒット
私の母のエピソードという超個人的なエピソードを出さずとも、その愛され度は、カラオケランキングを見れば一目瞭然。カラオケ配信のJOYSOUNDが、平成で最も多く歌われた曲を集計した「平成カラオケ総合ランキング」(集計期間は1993年1月1日~2018年12月31日)で、2000年リリースの『サウダージ』が堂々7位に入っている(ちなみに1位は1995年リリースの高橋洋子『残酷な天使のテーゼ』)。 しかも近年人気が再浮上し、「年間カラオケ総合ランキング」では、2022年の35位から2023年に第7位に急上昇した(JOYSOUND)。VaundyやYOASOBI、あいみょんなどの若者アーティストの中に、2000年リリースのこの歌が並ぶ感動! わかる。失恋した際の心の中を隅々まで表してくれたこの歌が、時代を超えて愛されるの、とってもわかる。 同時に、果敢に挑戦される方々にリスペクトである。この歌、むちゃくちゃ難しくない(汗)? 私も一度入れたことはあるが、歌って早々息継ぎタイムを見失い呼吸困難になり、歌詞に口の動きが追い付かず舌を噛み、そのうえ顎が「ガクッ」となり(顎関節症……)、サビまでいかないうちに、涙目になりながら止めた。鼻歌ならバッチリ歌えるが、実際の演奏に乗せると、こんなベリーベリーディフィカルトな歌だったかとビビる。 ちなみにボーカルの岡野さんは、9月29日に放送された『EIGHT-JAM』(テレビ朝日系、日曜夜11:00)に出演した際、常に美声で歌える理由として、「しゃべる声と歌う声の声帯を分けてコントロールしている」と明かしていた。せせせ声帯って使い分け可能な部分でしたっけ? そんなことできるのかと試してみたが、口と顔が歪んでいくばかりであった。プロってスゴい。いや、もはや怖い!
老若男女に一言一句届く幸せの音楽
これからも愛され続けるであろう、ポルノグラフィティ。彼らの8thシングル『幸せについて本気出して考えてみた』(2002年)という歌があるが、私も幸せについて本気出して考えたところ、音楽にあまり興味がない母を自然と魅了した、ポルノグラフィティの音力もまた、幸せの一つだと思うのである。 岡野さんのボーカルと、「その音がどんな言葉を求めているかを、しっかり読み解いていく」ことでていねいに紡ぎ出される新藤晴一さんの作詞。作曲者が音符のなかに込めた想いやフィーリングを取り出し、言葉にする彼の素晴らしいセンスが重なり、巧みなギターとともにポルノグラフィティの世界を作っている。 喜びも楽しさも寂しさも哀愁も、一言一句、老若男女にはっきりと届く歌の物語は、まだまだ、多くの人を感動させるに違いない。 きっと私の母も、いくつになっても『サウダージ』が鳴ったなら、寝転んだ体勢からヨッコイショと起き上がり、ソファに座るだろう。その音楽を読むために――。 これって、すごく幸せだと思うのだ。 ◆ライター・田中稲 1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。近著『なぜ、沢田研二は許されるのか』(実業之日本社刊)が好評発売中。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。
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