東出昌大の狩猟に映像作家・エリザベス宮地が密着「積雪で凍傷に…『慣れるしかない』と言われて」
撮り始めていくうちに狩猟の世界の厳しさを知り
──当初は東出さんと、お二人の共通の友人にして音楽担当の2人組バンド・MOROHA、双方を強く絡めたドキュメンタリーになる予定だったんですね。 宮地 はい。最初は東出さん五割、MOROHA五割で、双方の視点を相互的に重ねて共鳴させるような構成になっていたんです。なので、東出さんの狩猟も数日間だけ密着して、獲物を仕留める場面を収めたら終わろうかなって思っていたんです。それが、撮り始めていくうちに狩猟の世界の厳しさを知り、しかも事務所を退所され山へ移住するなど、東出さんを取り巻く環境が一変して。猟師の面、役者の面など多角的に“東出昌大という人間”を撮りたいなとなり、気づけば1年以上に渡り追っていました。 ──東出さんは、長期間に渡り私生活を追われることはどうでした? それこそ「単独忍び猟」という一人で全てをこなす狩猟のため、人がついた状態の狩りも初だったかと思います。 東出 確かに「猟として」の場合は、僕の師匠の服部文祥さん(登山家)から、「山登れないヤツと行っても(獲物は)獲れねえぞ」と言われて。確かに撮影当初は宮地監督、すごく山登りに苦戦されていて、獲りづらくなるよなあって。 宮地 ゴメンね(笑)。 東出 それに私生活の場合も、カメラが回ってしまえばどうしてもクセや欲が出て見栄を張り、演じてしまう自分も出てしまうかもしれない。けど、宮地監督とは互いにモノづくりのなんたるかの共通認識を持っていると思っていたので、狩猟の瞬間もいつも通りでしたし、日常もたとえカメラが回っている中でもクソできるなと思えるほど、自分をさらけ出せました。まあ、クソする場面は、使わないでねと言うと思いますが(笑)。 宮地 アハハ!そこは使いたくても使えない。 東出 まあ、それぐらい信頼していたということです。
一見楽々狩猟しているように見えるかもしれないが…
──狩猟の場面になると、宮地さんの息が上がる音が生々しく入っていました。相当過酷な撮影だったかと。 宮地 そうですね。一見楽々狩猟しているように見えるかもですが、一頭目をしとめるのに山に4、5回入っているんです。一度の狩りに大体2時間ぐらいかかるので、計10時間ひたすら山の中を歩くだけで。獲物と全然遭遇しないし足に激痛が走るほど歩くしで、マジで先行き不安になりましたね。 東出 単独忍び猟って、かなりキツいんです。僕も始めたころは毎回足ボロボロになっちゃって。これを解消するには鍛えるしかないんですよ。 宮地 みんなそう言うんだよねえ(笑)。本当に山に行くたびに心折れたから。山に慣れた後も大変だったしさあ。 東出 そうだった! 約半年経つと宮地監督も山へ行くのが苦痛ではなくなってきていて。ある日「さあ行きましょう!」と、二人で元気に山へ入ったんです。ところが、その日ものすごい積雪の日にぶち当たってしまい、宮地監督が凍傷になっちゃったんです。そこでまた心折れてしまうという(爆笑)。 宮地 本当に超痛くて大変だったんですよ(苦笑)。「でっくん(東出)、これどうすればいい?」と聞いたら、「慣れるしかありません」と言われて。ウソだろ⁉って、だんだんイライラしてきて。この不満を他の猟師さんや、阿部達也さん(料理家・猟師)に話を聞いても、「いや、雪道は慣れるしかない」と言われ、正直マジで密着止めようかと思ったほど(笑)。しかも凍傷になったシーンは全部カットしてます。 ──身を削った結果オールカットは、つらすぎる(苦笑)。 東出 文字通りの命懸けの撮影だったと思います。転げ落ちた瞬間に「撮影終了です!」となるほどの豪雪地帯にも入りましたし。そうした中、宮地監督はよく心折れながらも、長い時間追い続けてくれましたよ。 宮地 いやあ、多分相当なアドレナリンが出ていたんだろうね。阿部さんと一緒に群馬の山で狩猟する場面なんか積雪がヤバすぎて、どう撮ったかの記憶が全くない。「もう撮るしかないぞ!」という強い意志だけが僕を動かしていたんだと思います。 【後編】東出昌大の密着映画に込められた思い「“残酷であること”に真正面から向き合うことが、人間には必要」は下の関連記事からご覧ください。
田口 俊輔