「棺に入れて」女性が託したのは〝ラブレター〟だった 80年間大切にした、戦地で負傷した夫の思い
101歳で亡くなった女性が、「一緒に棺に入れて」とたったひとつ、家族に託していたもの。それは最愛の男性から80年前にもらった、ラブレターでした。女性の孫がXで投稿したその文面には、当時の〝ありふれた〟恋人たちの想いが込められており、多くの人が心を動かされました。(withnews編集部・松川希実) 【画像】80年前のラブレター。女性が大切に持ち続けた。封筒をとじるところに書かれた「√3」の意味は
「敗戦」の文字
「祖母が亡くなりました。101歳大往生です」 そんな一文で始まるXの投稿が、6月中旬、話題になりました。 投稿したのは、ソプラノ歌手のHinaさん(@Hinasoprano)。投稿には1枚の古びた便箋の画像を添付しました。 「桃櫻の花を見る頃には」 そんな言葉で始まる文は、恋人に会いたいという切実な想いを、流れるような筆跡で伝えていました。 手紙が書かれた日付は3月3日。文中にある「敗戦」の文字から、終戦翌年の1946年の3月3日だと推察されました。 差出人は祖母の恋人、そして後に夫になる男性でした。 祖母は80年もの歳月、そのラブレターを箱にしまって、大切に持ち続けていました。そして生前、「私の棺に入れてほしいもの」として、たった一つ、家族に託したのでした。
穏やかで、働き者の夫婦
Hinaさんが、その手紙の存在を知ったのは、祖母が亡くなった時だったと言います。 亡くなる50年も前から棺に入れることを約束した手紙があるーー。母から知らされたHinaさんは「こんなロマンティックな話が身近にあったのか」と驚いたと言います。 祖父は2006年に、すでに他界していました。 Hinaさんが覚えている二人は、孫から見ても仲が良く、穏やかで、働き者の夫婦でした。
「貴女の愛の手に」
祖母と祖父は、同じ学校の同級生として知り合ったそうです。恋人同士だった若い二人を引き裂いたのが、戦争でした。 Hinaさんは詳しく聞いたことがなかったそうですが、戦時中、祖父は海外の戦地に送られたと言います。そこで負傷して、終戦後もしばらく、千葉の療養所で養生していたそうです。 ラブレターは、その時、20代前半の祖母に宛てて送られたものでした。 棺に入れる前に、Hinaさんはその手紙を読ませてもらいました。祖父が達筆だったため読むのを諦めかけましたが、書道の心得がある義母に手伝ってもらい内容を知ることができました。 こんな想いが綴られていたそうです。 (戦地で)三発、足に銃弾を受けたとき、祖母の幻を見たこと。 戦争で手や足、命まで失った人を思うと、自分は幸せであること。 今すぐにでも会いたいが、また具合が悪くなって心配をかけてはいけないから、ちゃんと養生する、という決意。 そして、《貴女の愛の手にすがってみたい気持ちで一杯です》。 Xで投稿された画像は4枚ある手紙の、最後の1枚。こんな内容で締めくくられていました。 《桃桜の咲く頃にお会い出来ればと思います。より一層ご自愛ください。写真を撮ったので1枚送ります。お母様によろしくお伝えください》