R-18文学賞出身作家・小林早代子「新刊は全てのアラサー女性に届けたい」
「もうさー女友達と一生暮らしたいんだよね最近は!」一週間の疲れをハイボール(濃いめ)で癒す土曜日の夜。四人でいつも通り酔い散らかしているうちに出てきた選択肢。私たちが一生最強でいるためにはどうしたらいい? 【インタビュー写真】小林早代子「悩みも苦しみもたくさんある人生で、いろんな道を模索していいんだ」 引き込まれる冒頭が印象的な小説『たぶん私たち一生最強』。女による女のためのR-18文学賞受賞作品「くたばれ地下アイドル」でデビューした小林早代子の2作目となる連作短篇集には、宇垣美里、武田砂鉄、宮島未奈など多くの著名人から絶賛の声が届いている。「女の人生」と「友情」について書いた新刊に込めた思いについてインタビューした。 ◇R-18文学賞に応募した意外な理由 2002年からおこなわれている新潮社主催の文学賞「女による女のためのR-18文学賞」において、2015年『くたばれ地下アイドル』で読者賞を受賞し、デビューを果たした小林。応募の理由は少し意外なものだった。 「小さい頃は漫画家になりたかったんですが、漫画は描き終えることができなかった。小説でなら、1作描き終えることができたんです。それで、もしかしたら小説家にはなれるのかも、と思っていました。 そのうち真剣に小説家を目指すようになりました。数ある賞の中から、「女のための女によるR-18文学賞」を選んだ理由は、“女性限定なら、ほかの小説賞に比べて倍率が半分なのでは?”と考えたからです」 同席した担当編集者が驚くような理由でR-18文学賞へ応募した小林。「ええ? 他の応募者の方々もそうだと思ってました!」と笑う。 「今でこそデビュー後の大変さも大切さも実感していますが、当時の自分にとっては“小説家としてデビューすること”がとても大切だったんです。そのために賞を取ることが大事でした」 小林のように小説家を目指して賞へ応募する人は多くいるが、その立場から小林が意識していたことはあるのだろうか。 「書いたあと、文章をきちんと削ることはずっと意識していました。これは早稲田大学の文学ゼミに所属していた頃、同じ学生の書いた作品を読んだときに気づいたことです。それらの作品を読むと、書きたいことをすべて書いて全然削っていないのが、読み手にはすぐにバレてしまう。 私も書く立場なので、作品のために調べたことなど、もったいなくて全部入れたくなってしまう気持ちも共感できるんですけど、不要な部分は削らなきゃ!って、いつも感じていました。それは今回の作品でもそう。調べすぎると全部書きたくなってしまうので、事実確認は必要だけど、調べすぎずに想像する、ということも執筆においては必要なんじゃないかと思っています」 ◇女性は気遣いの平均値が高いのではないか? 「女の人生」と「友情」がテーマの本作。主人公は、それぞれに悩みをもつ4人の女性。「愛」に不満を抱える広告代理店勤務の百合子、大企業で多忙に働く澪、長年付き合った彼氏と別れた漫画家の花乃子、仕事に不満を抱えて「転職したい」が口癖の亜希。 “もうさー女友達と一生暮らしたいんだよね最近は!”という花乃子の一声をきっかけに、ルームシェアを始める4人の人生が、きれいごとなしにリアルに描かれている。 「もともと『ハリー・ポッター』や『フレンズ』〔※アメリカで10年にわたって放送された人気ドラマ。日本でもWOWOWや地上波で放送され、ファンが多い〕など、家族以外の人間と一つ屋根の下で暮らす設定の作品が好きで、憧れがあったんです。でも、この作品は最初はルームシェアの設定ではありませんでした。 一番最初に書いたのは単行本では4篇めの「よくある話をやめよう」。漫画家の花乃子が主人公で、その段階ではルームシェアのルの字もなく、セックスレスがテーマの物語でした。その次に執筆した「あわよくば一生最強」(単行本1篇めに収録)で花乃子の女友達3人を登場させたところから、ルームシェアものにしよう! と大きく舵を切りました」 読んでいくとルームシェアの楽しさを感じる一方、「女性の気遣い」を感じる側面も随所に散りばめられている。「気付いた人がやる系のタスクが放置されることはほとんどないし、月ごとの家賃光熱費も毎月きっちり平等に清算された」という、女友達同士のルームシェアならではの実情も表現されている。 「友人を含めて自分の周りを見てもよく感じることですが、女性って気遣い力の平均値が高すぎませんか? もちろん例外もあると思うのですが、男性同士のルームシェア事情を聞くと、誰かがやらなきゃいけないタスクは放置されがちだし、そこに起因した軋轢も発生しやすい。 お互いが気を遣う女性同士のルームシェア、それは美しく見えることもあるけれど、生活を共にすると、無意識のうちに先回りして“気遣いができすぎてしまう”ゆえの息苦しさのようなものもある。この作品の4人の生活でもそれを書いたつもりです」 最後の一篇「女と女と女と女」では、4人をどこか俯瞰で見る、ある人物の物語も。 「4人はそれぞれ人生に悩んでいて、つらいこともある。でも、恋愛ができて、仕事もあって、一緒にいれば最強だと言える友人がいる。女友達と一生一緒にいようと選択できることは当たり前ではないし、恵まれたことですよね。ただ、世の中にはそうではない人もたくさんいる。 その部分も含めて、楽しいだけではない一篇を書きたかったんです。本作を読んでくださった方から「最後の一篇が特に面白かった」と言ってもらうことも多く、改めて書いてよかったと思っています」