「美しく負けるか、無様に勝つか」――。バルサの基準ではシャビ監督が強烈な批判を浴びるのは当然だ【コラム】
「結果」だけでは納得されることのないクラブ
「美しく負けるか、無様に勝つか」 かつてFCバルセロナを率いてセンセーションを巻き起こしたヨハン・クライフは、そう言ってラ・リーガ3年連続最終節での逆転優勝やクラブ史上初の欧州戴冠ももたらした。とことんスペクタクルを求め、高度なボールプレーにこだわった。 【動画】ヴィニシウスがクラシコで圧巻のハットトリック 「お前はワンタッチなら特別だ。ツータッチなら普通。スリータッチ以上なら、おばあちゃんと変わらない」 クライフが弟子ジョゼップ・グアルディオラに伝えたメッセージは極端だが、象徴的である。徹底的にボールを中心にしたスキル、ビジョンを優先。それは他のどのポジションの選手に対しても変わらなかった。 後にバルサを率いたグアルディオラは、その理念を継承した。それは概念というよりもフィーリングにも近かった。身に染みついたものになっていた。 クライフもグアルディオラも冒頭の理念で選手を集め、論理的にトレーニングで落とし込んでいる。ボールを持って攻め続けることは必然で、“最高の勝利の手段”だった。彼らは独自の存在だ。 そしてクライフが整備した下部組織ラ・マシアで育ち、グアルディオラからポジションを”禅譲”する形で受け継いだシャビ・エルナンデス監督は、現役引退後、今や監督としてバルサを率いている。あらゆるエッセンスを遺伝子にまで組み込まれた指導者と言える。事実、極めて期待は高かった。昨シーズンは、チームをラ・リーガ優勝に導いたわけだが…。 現在のところ、シャビの評価は真っ二つに分かれる。「最強バルサを取り戻すプロセスにある」という意見と、「すでに頭打ちで、希望は乏しい」という意見で揺れる。前者は昨シーズン、守備を再建し、優勝という結果を残した点を重視。後者は今シーズン、有力選手を数多くそろえたにもかかわらず、プレーが安定せず、勝ち切れない試合が目立つ。 一つ言えるのは、バルサは「結果」だけでは納得されることのないクラブである。結果を叩き出した戦いは、クライフ、グアルディオラの時代と比べれば、凡庸で意外性を欠いた。それが結果も出せなくなっている昨今、強烈な批判を浴びるのは当然と言えるだろう。 「少し前までは‟バルサのアレックス・ファーガソン”と持ち上げていたのに、今やクビだとつるし上げられる」 シャビ監督は、周りの環境の一貫性のなさを嘆く。 ただ、バルサとはそうしたクラブであることを、彼は承知のはずだろう。 「美しく負けるか、無様に勝つか」 それこそが、バルサの基準なのである。 文●小宮良之 【著者プロフィール】 こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。
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