60年前の平泉成、筋トレに熱中「バーベルを持ち上げていてね」監督が「アホか」と激怒した理由
役者生活60年目にして、初めて映画に主演する平泉成さん、80歳。日本を代表する名バイプレイヤーとして、昭和・平成・令和で常に第一線で活躍し続ける平泉さんには、いくつものTHE CHANGEがあった。【第5回/全5回】 ■【画像】60年前の平泉成、筋トレでバーベルを軽々持ち上げる姿■ 6月2日に80歳を迎えたばかりの俳優・平泉成さん。その数字と、目の前で存在感を発揮する頼もしい分厚い胸板のギャップに、記者は戸惑いを隠せない。それもそのはず、大映作品に出演していた60年代当時の映像を振り返ると、大胸筋の隆起がすさまじいマッチョ体型なのだ。 「大映の撮影所に入っていたころだから、60年前かな。若かったし、ターザン映画の影響もあって、撮影所の藤棚の下でバーベルを持ち上げていてね」 筋骨隆々の野生的な半裸男性が、超人的な戦闘力と明敏な頭脳で大冒険する作品『ターザン』。たしかに当時の平泉さんは、野性味と紳士的なオーラが同居し、ターザンの影響を否めない。
「三隅研次監督に、えらい怒られたんです」
ーー撮影所にバーベルを持ち込んでいたんですか? 「そこにあったやつね。延々やっていたら、そんな体になってきたんだ。当時の写真を見るとびっくりするくらいの体だよね。それで、『大魔神』シリーズ(1966年)を撮った三隅研次監督に、えらい怒られたんです」 ーーなぜですか? 「“おっさんアホか! 調子に乗って、女の子に見せたいようなお腹バキバキになった体で! アホか! なんでそんな体になってるんや!”って。“いや、かっこいいと思って……”と返すと、“そんな体をしたら肉体労働者の役ができないぞ! 肉体労働者が脱いで胸筋がこんなに割れているなんておかしい!”と」 三隅監督は「そんなこと、もうやめなさい」と諭すように言った。それは、さまざまな役柄を演じなければならないプロの役者にとって、至言にほかならなかった。
三隅監督の言葉を素直に受け入れた
「それで、“そりゃまあそうだな”と思いました。これからは、こういう役をやるときだけ、ちょっと鍛えるくらいにしておこう、と思い直したんです。でもいまの役者さんを見ると、みんなこうだよね」 ーーたしかに、筋トレをするなど鍛えている方は多いです。 「自分でやってみたことがあるから、なんかこう“俺の体を見ろ!”みたいな、自信がないやつがそれをやっているんだろうという一面もありますね。僕自身もそうだったんだと思う」 ーー昭和の俳優さんも、令和の俳優さんも、若いころは「鍛えたい」と思うのは同じなんですね。 「僕も監督に言われるまでは気づきませんでした。バーベルだけで鍛えたってダメなんですよ。ほんとうに鍛えるならば、体を動かしてしなやかな筋肉をつけていかないとね。バーベルで作った筋肉は、バーベルを上げること以外にはあまり効果がないんです。今は体の鍛え方・トレーニング法も昔とは違って洗練されています。見た目がちょっとこうなるだけです」 意外なマッチョ時代を振り返る平泉成さん。監督に怒られたあのときは、役者にとって大切なことを思い知らされた、THE CHANGEした瞬間でもあったのだ。 ひらいずみ・せい 1944年6月2日生まれ、愛知県岡崎市出身。高校卒業後、ホテルに就職。大映フレッシュフェイスに応募、1964年第4期ニューフェイスに選ばれる。その後、大映作品に出演、1966年『酔いどれ博士』で映画デビュー。1971年の大映倒産とともに活動の場をテレビドラマに移行。1984年から現在の芸名“平泉成“に改名。以降、作中で存在感を放つバイプレイヤーとして名を馳せる。その特徴的な声と唯一無二の人間味が、多くの人にものまねされることになり、世代を超えて支持されている。 有山千春
有山千春