事故で右腕失った男性、恩師と偶然再会…空手に再挑戦 「人生がより楽しくなった」 福井県
事故で右腕をなくした福井県福井市の60代男性が、かつて空手の指導を受けていた恩師と偶然再会したことをきっかけに、40年ぶりに稽古を再開した。男性は「人生がより楽しくなった。周囲の支えのおかげ」と話している。 早川雅雄さん(63)が最初に闘己會吉塚道場の門をたたいたのは20代の頃。当時流行した空手漫画の登場人物に憧れ、吉塚清憲会長から空手の基礎を教わった。数年続けたが、就職を機に練習への参加が難しくなり退会した。吉塚会長とは年賀状のやりとりのみになった。 代わりにのめり込んだのは市民ソフトボール。製造業の仕事の傍ら、地元のチームに所属し投手として活躍、チームの昇格にも貢献した。 42歳のとき、仕事で機械を点検中に腕が巻き込まれ、右上腕部を切断した。利き腕をなくした日常生活の不便さはもとより、「もうピッチャーはできないということがショックだった」。 それでも、2人の娘に落ち込む姿を見せてはいけないと自らを奮い立たせた。病室では左手でタオルを振り、退院してからは妻とキャッチボールをして投手復帰を志した。事故後10年以上続けたが「右で投げるような球にはならなかった」。投手を任された試合を最後に引退した。 定年退職後、健康のため空手の自主練習を始めた。かつて吉塚会長から教わった基本技を思い出しながら、一人汗を流した。2年ほどたった今年2月、市内のショッピングセンターで偶然、吉塚会長を見かけ、声をかけた。話をする中で「もう一度指導を受けたい」という気持ちが膨らんだ。吉塚会長に電話をすると「体力や年齢に合わせて稽古できると背中を押してくれた」という。 3月からは週に2回、吉塚道場の練習に通い、突きや蹴り、形などの稽古に取り組んでいる。組み手では右手でガードができない分、体を反らしたり間合いを取るなどしてカバーしている。「40年前と比べ、動きは鈍くなった」と笑いながら「自主練習とは質や張り合いが全然違う。体力がついたし何より稽古が楽しい」と充実感をにじませる。吉塚会長が「まじめでやる気に満ちている。技のレベルも上がってきた」と評価する通り、10月に市内で開かれた大会では、壮年の部で優勝した。 現在4級で、緑色の帯を締める早川さん。「黒帯を目指したい。健康で生涯続けられたら」と話した。
福井新聞社