『World of Warcraft』世界を生きた難病の青年の物語「イベリン 彼が生きた証」Netflixで配信―ブリザード幹部も感動、知的財産の無償提供を許可
動画配信サービスNetflixは、MMORPGを通した人とのつながりを描くドキュメンタリー映画「イベリン 彼が生きた証」を、10月25日より配信する予定です。 【画像全4枚】 「イベリン 彼が生きた証」は数々のドキュメンタリーを手がけてきたノルウェー出身の監督、ベンジャミン・リーの三作品目にあたり、初公開時の2024年サンダンス映画祭で世界ドキュメンタリー監督賞と観客賞を受賞しています。 監督が本作でスポットを当てたのは4歳から「デュシェンヌ型筋ジストロフィー」を患い、2014年に25歳で亡くなったノルウェー在住のMats Steenさんの冒険に満ちたオンラインゲームライフと、そこに不可欠であったコミュニティとの深い友情です。デュシェンヌ型筋ジストロフィーとは3,000人に1名程度の頻度で発症すると言われ、幼少期に運動発達の遅れが目立ち始め成長と共に筋力が低下。徐々に頭を洗う、コップを口元に運ぶなど日常の動作すら困難となり、10代後半以降では体を動かせる範囲がさらに狭まり、ほとんどの人が車椅子生活となる疾患です。 家族は誰も知らなかったもう1つの人生 生前のSteenさんは2004年から2014年まで、地下室のアパートをほぼ出ることなくMMORPG『World of Warcraft』を何万時間もプレイし、身体的ハンディキャップが影響しないゲームの世界に没頭していたそうです。両親をはじめとする家族は、そんなSteenさんの姿を「病気の進行により孤立が深くなった」と捉えていましたが彼の死後、家族の元にはゲーマー仲間からの多くのメッセージが届けられ、親も知らなかった“デジタル世界の中のMats Steenの物語”がありました。彼は最後の最後にブログで告白するまで、ゲーム内の友人たちには病気のことを秘密にし、片や現実では家族の誰もSteenさんの過ごすデジタル世界について何も知らなかったのです。 リー監督は彼の死後にゲーム内の親友やライバルたちにインタビューし、両親の手元にある記録を徹底的に調査することで、彼のデジタルライフを映像で再構築・作品化しました。なお、タイトルの「イベリン(Ibelin)」は、Steenさんが使っていたゲームのキャラ名です。 作品内では『World of Warcraft』から直接取り出したモデルを使用し、アニメーターと協力してSteenさんがゲーム内で見たであろう出来事を再現したため、映画の完成後に監督はブリザードに連絡。「私たちは知的財産を無償で提供してほしいと頼む、ノルウェーからやってきた無名の2人でした」とコメントしていますが、ブリザードの幹部は映像を見て感激し、許可を出しています。 余命15年の宣告を受けたMats Steenさんが、時に激しい苦痛に耐えながらも人々と交流し、『World of Warcraft』の世界を探索した記録、「イベリン 彼が生きた証」は10月25日よりNetflixで配信予定です。
Game*Spark 稲川ゆき
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