花組・柚香光が粋な着流し姿でモテまくる浪人を演じた「鴛鴦歌合戦」
とにかく楽しい作品「鴛鴦歌合戦」。この作品は1939年にマキノ正博監督によって製作された同名のオペレッタ映画を舞台化したものだ。脚本・演出を小柳奈穂子が手がけた。 【写真を見る】 物語の舞台は江戸時代、花咲藩の城下町だ。清貧に暮らす浪人・浅井礼三郎(柚香光)と、隣に住む傘張り職人の娘・お春(星風まどか)はお互いを憎からず思っている。 だが、礼三郎はモテる。大店のお嬢様おとみ(星空美咲)や、礼三郎の許嫁だという藤尾(美羽愛)の存在にヤキモキしながら、お春は過ごしている。父・志村狂斎(和海しょう)が稼いだお金をすぐに骨董に使ってしまい、食うに困る有様であることも、お春の悩みの種だ。 花咲藩の殿様・峰沢丹波守(永久輝せあ)も骨董に現を抜かしているが、ある日、狂斎の家を訪ねてきてお春を見初め、妾に欲しいと言い出す。すでに骨董屋で殿様から50両出してもらっていた狂斎は、この申し出を断り切れない状態に。いっぽう、おとみの礼三郎へのアプローチも激しさを増し...果たして、礼三郎とお春の恋路やいかに? とにかくモテる礼三郎を演じるのが花組トップスターの柚香光。この作品は柚香のトップ時代における唯一の日本物であり、粋な着流し姿が魅力的だ。タカラヅカ版では、紛失したはずの花咲藩のお宝「鴛鴦の香合」を持っていたのが礼三郎だったというエピソードも加わり、そのすっきりとした立ち居振る舞いの中に、由緒正しい血筋ゆえの品格と奥ゆかしさも感じさせる。 「ちぇっ」という口癖が可愛いお春(星風)は、礼三郎への愛を貫くためにあっと驚く行動をとってみせる、あっぱれなヒロインである。お金よりも家柄よりももっと大切なもの、それは「愛」だというメッセージを真っ直ぐに伝えてくれる。 骨董と女性が大好きな峰沢丹波守(永久輝)は愛らしさたっぷり。だが、お家騒動にまつわるエピソードでは一皮向けた姿も見せてくれる。 登場人物たちのユーモラスなキャラクターは原作映画に忠実に描かれている。お春の父・志村狂斎(和海)は骨董狂いだが、土壇場では潔い決断ができるところが気持ちの良い人物だ。 偽物ばかりを売りつける道具屋六兵衛(航琉ひびき)の骨董屋は冷静に見たらひどいが、鷹揚に許されている。娘の藤尾のために一計を案じる遠山満右衛門(綺城ひか理)は策士だが、これまた憎めない。おとみに付き従う三吉(天城れいん)は、わがままなお嬢様に大事なことを教えて、その心を振り向かせてみせる。 さらに、タカラヅカ版オリジナルのキャラクターも登場する。殿様の弟君・秀千代(聖乃あすか)は末っ子らしい第一印象と藤尾を想うあまりの八面六臂の活躍ぶりとのギャップが愛おしい。 花咲藩の行く末を案じる、健気な正室・麗姫(春妃うらら)。頼れるはずの家臣・蘇芳(紫門ゆりや)らの存在は、どこか抜けているようなところに親近感を覚える。そして、一連の騒動の鍵を握るのが、殿様の母上・蓮京院(京三紗)である。 日本物らしい華やかな場面も随所に織り込まれている。幕開きでは、客席のあちこちから歓声が漏れる。夏祭りの場面も賑やかで楽しい。 元の映画は1時間余りの小品で、ストーリーも他愛ない。その愛すべき世界観を大切に守りつつ、タカラヅカ版は新たに加えたエピソードと演者たちによって見応えが増した、結末も幸せいっぱいな作品だ。 文=中本千晶
HOMINIS