生見愛瑠主演『くる恋』はラブコメというよりお仕事ドラマ? “本当の自分”より大切なこと
TBS火曜ドラマ『くるり~誰が私と恋をした?~』は、“恋の相手”と“本当の自分”を探していく姿を描いたラブコメミステリーである。階段から転げ落ち、記憶をなくした主人公の緒方まこと(生見愛瑠)が、3人の男性との関係によって、自分の記憶を取り戻そうとする様子が描かれている。 【写真】なぜか制服姿のまこと(生見愛瑠)や公太郎(瀬戸康史)たち 興味深いのは、まことが持っている指輪のサイズが、3人の男性にぴったりなことと、以前のまことは、どこか周囲にあわせようとして無理をしていたところがあるのかもしれないと思わせるところだ。 以前のまこととはどんな人だったのか。Instagramではカフェで食べたご飯の写真ばかりで、まこと自身も「つまらない」と思わずつぶやいてしまうし、同僚と昼にランチに行ってみるも、同僚たちは、まことに対して「薄い」情報しかもっていない。 それもこれも、まこと自身が同僚たちに「ニコニコ相槌売って同僚の話聞いてるだけだった」からであり、まこと自身が、周囲に合わせ、悪目立ちしないように壁を作っていたということが伺える。そんなふうに会社での生活をやり過ごす人は、ドラマの中だけに存在するわけではないだろう。 男性社員から馴れ馴れしく話しかけられて「それってセクハラですよね」と現在のまことがストレートに言う部分もあるのだが、この会話からも、以前のまことであれば、セクハラをされていてもそのことを言えずに流していたのではないかということもわかる。 記憶をなくして初めて、過去の自分のふるまい方に疑問を感じるまこと。しかし、同僚で“唯一の男友達”だと語る朝日結生(神尾楓珠)は、「記憶戻るまで、ちょっとおとなしくしてた方がいいかも」「この会社でうまくやっていくために、いろいろ気を遣ってたんだよ」と提案する。無駄に嫉妬されないように、目立ちすぎないようにすることは、まことの「努力」だったと説くのだ。 しかし、まこと自身は「愛想笑いして、嫌われないように話合わせて」いた自分に疑問を感じ、結局、同僚に陰口を言われて「私ってバカみたい」と朝日に対して率直な気持ちを吐露する。 正直、男性キャラクターが、女性がこの世を生きぬくためにやっている「悪目立ちしないための努力」を肯定するという流れには違和感を持ってしまうところもあるが、そんなことを言う男性キャラクターへの違和感が、このドラマを「ミステリー」にしているとも感じるところである。 もうひとつ、第1話で興味深かったのは、まことの会社で働く派遣社員の松永さん(菊池亜希子)の存在だ。 松永さんは、社員の女性たちがお昼休みで外食に行く際、まことから一緒に行かないかと誘われても、その誘いを断り残ってお弁当を食べている。正社員から体よく残業を押し付けられてもいるし、正社員しか扱ってはいけない顧客データを必要だから扱っていたにもかかわらず、そのことで会社を追われることになる。 松永さん自身は、そんなことは派遣社員には当たり前とばかりに、諦めた顔をしているのだが、まことは、「右から左に受け流すなんてことはできそうになくて」と、松永さんの置かれた理不尽な状況に腹を立て啖呵を切って会社を辞めてしまう。 きっと以前のまことであれば、こんなことはしないだろう。同僚の朝日であれば、会社に啖呵を切るまことは、「悪目立ちしないために努力を惜しまなかった本来のまこと」ではないと考えるのではないだろうか。 しかし、花屋を経営する“元カレ”西公太郎(瀬戸康史)は、そんな正義感の強いまことを「らしい」と評する。果たして、まことの本当の姿はどっちだったのだろうかと思わせるシーンであった。 ところが、このドラマを第2話、第3話と観ていくと、派遣社員の松永さんは、自らをまことの“運命の相手”と語る板垣律(宮世琉弥)がお金を払って、まことの元に送っていた存在であったということが発覚する。しかも、正義感によって会社を辞めたまことのことを律が「まことさん、そんなバカなことしない人なんだけどな……」とつぶやく姿が怖い。 一方、律に利用された松永さんが、「ほんとの緒方さんのこと知ってるんですか? 何が目的か知らないですけど、緒方さんに酷いことしないでください」と言っていることに救われたが、謎が残るシーンであった。 その後も律には不穏なシーンが多く、ほかの2人の男性たちにも思惑のある様子を見ていると、このドラマが、単に1人のヒロインと、3人の男性の恋のさや当てを描くことが目的ではないことがわかる。 このドラマは、まことが「本当の自分」を取り戻すことも大きなテーマであるが、果たして周りに合わせて擬態していた以前のまこと自身が「本当の自分」なのだろうか。第2話以降では、ラブストーリーの部分が多くなっているが、第1話で描かれていたことが、どのように今後のストーリーに関わってくるのか、気になるところである。
西森路代