エルメス「つかの間の停泊者」展リポート 作家4人の壮大な作品を解説
素材を巧みに操る彫刻師
ケイト・ニュービー
セラミックやガラス、布など、さまざまな素材を操るケイト・ニュービーは、栃木・益子と居住地である米テキサスで制作した、新作のセラミック作品2点を展示。どちらも、現地の人とのつながりや、素材と対話することで生まれるエネルギーに着目する同氏ならではの作品だ。8階のフロアには、藤原陶房と益子で協働した、300ピース以上の陶板からなる「いつも、いつも、いつも」を設置。陶土の上でニュービーが体を自在に動かしながら形を作り、また複数の釉薬や原土パウダー、東京の街を歩きながら収集したガラスなどを用いて、さまざまな土の姿を表現した。そのとなりには、米テキサスで制作した1000ピースあまりのウィンド・チャイム「呼んでいる、呼んでいる」を展示している。
あらゆる存在を平等に受け入れる
保良雄
保良雄は、3つの相関する作品から構成したインスタレーションを披露した。同氏は「テクノロジー、生物、無生物、人間を縦軸ではなく横軸で捉え、存在を存在として認めることが制作の目的」と語り、アートワークの一環で農業や養蜂も行っている。「noise」は、帰宅困難地域だった福島・大熊町で栽培された稲藁を原料に、保良自身が作った和紙を用いた円柱状のドームだ。内側には12個の照明を配し、同会場内に設置した太鼓の上に落ちる精油の音によってランダムに点灯する。精油は東京と福島、千葉、沖縄で採取した柑橘から抽出した。
「cosmos」は、木材と大理石の台座の上に19世紀に天気予報に使われていたストームグラスを置き、自然素材を通して宇宙の秩序の可視化を試みる。「glacier」は、ネパールのアンナプルナで採取した氷河の氷が、手の平で溶けていく様子を24枚の写真に収めた作品だ。人間社会におけるモノとの関係を検証しながら、エコロジーの中に潜在する優劣や格差などへの批判を込めたアプローチを披露している。