外国人出場枠1を巡る「もうひとつの箱根駅伝」
一方、1年生のニャイロは今季グングンと力をつけてきた選手だ。入学当初は、練習で勝っていた日本人選手が、最近はまったく歯が立たないという。春はヒョロヒョロした印象だったニャイロだが、たくましい体格になり、駅伝でも力強い走りを見せている。出雲と全日本は最長区間のアンカーを務めて、ともに区間賞を獲得。特に全日本は素晴らしく、19.7kmを区間歴代4位の56分55秒で走破した。日本人トップの駒澤大・大塚祥平に1分44秒の大差をつけており、箱根駅伝でも爆走が期待できそうだ。 チーム編成を考えると、ケニア人留学生の2区が有力。ニャイロが出走することになれば、区間記録保持者である大学の先輩、メクボ・ジョブ・モグス(現・サンベルクス)が1年時にマークした1時間7分29秒あたりがターゲットになるだろう。区間賞を狙えるレベルのため、チームをトップ争いまで押し上げることができるはずだ。他にも1万m28分台の記録を持つ田代一馬、佐藤孝哉、上田健太、市谷龍太郎らを1区や3区に配置して、序盤で流れをつくるのが山梨学院大の戦略になる。 オムワンバも最後の箱根に向けて調子を上げてきているが、2区を走るとなると、過去のトラウマもあるためメンタル的に厳しい部分があるだろう。ただ、ニャイロがここまで活躍できているのは、先輩・オムワンバが精神的な負担を埋めてくれた面もあるという。上田監督は、「ニャイロはエノックがいなければここまで走れなかったと思いますよ。彼らを見ていると、兄弟のような温かさでエノックはニャイロに接して、ニャイロもエノックを兄のように慕っている」とオムワンバの人間性を高く評価している。母国の後輩とはいえ、「1枠」を争うライバルにオムワンバは優しく手を差し伸べているのだ。 彼らの関係は、日本人の琴線に触れるもの。だからこそ、上田監督の悩みは大きいと思う。“人情的”には、オムワンバに最後のチャンスを与えたいという気持ちがあるはずだ。同時に上田監督の次男・健太、市谷、河村知樹ら2年前の全国高校駅伝で初優勝を飾った山梨学大附属高校から上がってきた期待の学年が2年生ということもあり、近い“将来”を考えると、1年生のニャイロに経験を積ませたいという思いもあるだろう。 最終的には「状態の良い選手」を起用することになるはずだが、上田監督の気持ちは揺れている。世間から「助っ人」と見なされることの多い留学生だが、彼らが抱える“もうひとつの箱根駅伝”を知ってもらえると、ケニア人ランナーの爆走も感動的に映るかもしれない。(文責・酒井政人/スポーツライター)