【洋物から伝統に回帰?】「スピ系女子」が令和の時代に「祈祷」にハマる「社会の病理」
若い女性の「祈祷」ブーム
若い女性の間で「祈祷」が静かなブームになっている。祈祷が受けられる徳島県三好市の賢見神社はひそかなパワースポットだ。 【一覧】これが日本の7大新宗教だ! 険しい山中に佇む神社は、古くから「犬神」という動物霊が憑依する「犬神憑き」を落とせることで知られた。「犬神」が憑くと、原因不明の高熱が出たり、犬のように大声を上げるようになったりするという。神官になって半世紀超の漆川和孝さんは「(憑き物落としの)祈祷の最中に暴れたり、泣き叫んだり、逃げたりする人もいます」と話す。 言葉が聞き取れないくらい独特な抑揚を付けて、祝詞が読み上げられ、祈祷が始まる。静寂のあとに空気を震わせて柏手が響き、再び祝詞が奏上される。突然、シャラシャラと金幣(金属でできた御幣)とその先に付いた鈴が頭上で激しく鳴り響き、祝詞の声が上ずって熱を帯び、大きくなる。 「ここは観光地ではないですから、見るものも食べるものもない。皆さん、信仰と祈祷のためだけにいらっしゃいます」(漆川さん) もともと年間2万人だった参拝者は近年3万人を超えた。正月などの期間を除けば、参拝者の9割が祈祷を受ける。東京から来た20~30代の迷える若い女性も多いそうだ。
なぜ増えたのか
祈祷とは、神仏の加護を願って、除災増福を祈ること。日本には神道や仏教、山伏系から民間信仰、新興宗教に至るまで、さまざまな祈祷師がいる。伝統宗教の退潮と軌を一にして、その数は減ってきた。ところが、女性の祈祷に対する需要は、むしろ高まっている。 「占いを入り口に、まずはタロットや星座占いといった“洋物”から入り、それでは飽き足らなくなって、日本の伝統的な祈祷に回帰する流れがあります」 こう解説するのは、祈祷師として活動する、はたの びゃっこ氏。この流れは、'00年代に『オーラの泉』などで盛り上がったスピリチュアル・ブームの延長線上にある。その後、非科学的などとの批判もあってテレビからスピリチュアルな要素が排除され、表向きはブームは沈静化した。 けれども、草の根での拡大は続く。ネットやイベントの場でスピリチュアル系(スピ系)の盛り上がりは、留まるところを知らない。背景には、霊的なものを感じていなければ生きていけない、依存性の高い女性が都会に増えていることがあると、はたの氏は指摘する。 なんでも霊のせいにしたがるスピ系女子の氾濫は、未来が見通せず、いまだに男社会である現実からの逃避という側面も持つ。そこに映し出される社会の病理にも目を向けたほうがよさそうだ。 「週刊現代」2024年10月26日・11月2日合併号より
山口 亮子(ジャーナリスト)