「もののけ姫」で時の人に…20cmヒール靴で隠した低身長 米良美一がアイデンティティ告白で得た“自由”
「ヨイトマケの唄」との出会い
自著「天使の声 生きながら生まれ変わる」(大和書房)を書いたことも、その一助になったと語る。出版されたのは2007年だが、自身の心の中の雲が少しずつ晴れ始めた2003年にある曲に出会ったことも大きい。美輪明宏が歌う「ヨイトマケの唄」だ。幼少時、病弱な自分のために懸命に働き、治療費を捻出してくれた両親の姿を思い出し、かつての自分の心情に重なる歌だと共感をおぼえた。 「美輪さんにご許可をいただき歌いました。あの歌のバックボーンは僕の生い立ちそのものです。友達にいじられたことで、父母や家庭の環境を恥ずかしいと感じていた自分もいたんです。何しろセンシティブにできていたから傷ついた。それでも目立ちたがりの部分もあるし、人を喜ばせたい、人に認められたいという思いがあった。そうでなければ受け入れてもらえないと思って。そうした心情があの歌にはあるんです」 歌で人を癒すというより、歌うことによって自身が癒されるという。自分が幸福感に満ちないことには人を癒せない、自身からあふれる幸福感が誰かに伝わることで自分の幸福感もまた増えるという。その心境に至れたのは、44歳時にクモ膜下出血で倒れる少し前、ここ10年ほどの話だという。 「逆に30代は苦しくて、そんなときに『ヨイトマケの唄』に出会ったんです。後から思えば全ていいタイミングで、出会うべくして出会ったということ。必然だったと思っています」
人との縁を大事に
自身が救われる気持ちになった今、仕事を丁寧にこなし、出会った人との縁を大事に生かしていきたいと考えているという。 「もちろんそうしたご縁を粗末に扱ってきたつもりはないですけど、自分の心を優先するあまり、相手のことを結果的に蔑ろにしてきた部分もある。一緒に成長していける関係なら、手放しで相手を称えて生きていきたい、と思えるようになった」 そんな心境で得た仕事の一つが、2017年に出演した綾瀬はるか主演のNHKドラマ「精霊の守り人」(シーズン3)だ。綾瀬演じるバルサの出身国・カンバル王国の全牧童の最長老・トトを演じ、米良の新たな一面が知らされた。 「トトは推定100歳超ですからまさに『もののけ』の役でしたね(笑)。プロデューサーからオファーがありました。もちろん努力は必要ですが、ニュートラルに心を整えて開いていたら自然にさまざまな仕事がやってくると信じています」 近年は童謡に力を入れている。自身の独特な解釈を加えた歌い方や表現方法で、コンサートで披露しているが、それをまとめた音源を作ることを考えている。「さっちゃん」 や「ぞうさん」「犬のおまわりさん」といった誰にも馴染みのある曲が米良の世界観によって再現される童謡の世界の実現が楽しみだ。 *** 第1回【ポスト聖子の野望で歌手の道へ… “ド演歌育ち”米良美一が「もののけ姫」を歌うまで】では、大学の先輩のアドバイスから稀有なカウンターテナーの第一人者となった経緯などについて語っている。
デイリー新潮編集部
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