【ネタバレあり】保志総一朗、「ガンダムSEED」キラ・ヤマトと歩んだ声優人生。最新作で探った“あのころのような弱さ”
いよいよ公開となった『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』。「ガンダムSEEDシリーズ」は、21世紀最初のガンダムシリーズとして2002年10月から放送がスタートした「機動戦士ガンダムSEED」(以下「SEED」)、2004年10月から放送された続編「機動戦士ガンダムSEED DESTINY」(以下「DESTINY」)と合わせて全100話が放送された。“非戦”をテーマにしたリアリティあふれるストーリーに迫力のバトルシーン、さらに男女の恋愛も絡ませた展開によって、従来のガンダムファンだけでなく多くの女性ファンをも獲得することに成功した作品として知られている。 【写真を見る】アスランとのツーショットに、ナタルやトールも…キラたちの思い出が詰まった写真たち ※本インタビューには『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』のネタバレとなる要素を含みます。未見の方はご注意ください。 その人気の一翼を担っているのが、20年以上にわたって主人公のキラ・ヤマト役を演じる声優の保志総一朗の存在だ。数多くの作品で人気キャラクターを演じている保志だが、キラ役について、「キラという存在は家族であり分身でもある」と話す。 「テレビシリーズは20年くらい前に放送が終了しましたが、その後も毎年のようになにかしらでキラのセリフを収録する機会があり、絶えず関わらせていただいています。これだけ長く継続して携わらせていただく作品はそうないものなので、そういう意味でも『ガンダムSEED』は声優の保志総一朗にとって切っても切り離せない作品です。きっと多くの方が僕=『ガンダムSEED』と思ってくださっているのではないでしょうか。実際にキラ・ヤマトという人間になっている時間は、僕の声優人生の大部分を占めています。だから、キラという存在は家族であり分身でもあると思います。劇場版で新しい一面を演じてはいますけど、常に自分のなかで一緒にいる気持ちが大きいです」。 ■「台本を読んだ時は個人的にちょっとショッキングでした」 本シリーズは、遺伝子を調整された人類(=コーディネイター)と、生まれたままの人類(=ナチュラル)の戦いを主軸に物語が進んでいく。「SEED」では、16歳の学生であるキラはクラスメイトと共に戦争に巻き込まれ、運命のいたずらによってかつての親友だったアスラン・ザラと敵として再会するなど、戦いのなかで成長していく、非常にナイーブで運命に翻弄される少年として描かれた。しかし、キラの親友であるアスランと、テロ事件に巻き込まれて家族を失ったシン・アスカをメインに描かれた「DESTINY」では、最高のコーディネイターとしての才能に覚醒し、戦争の平和解決のためにラクス・クラインと共に戦う第3の勢力として登場する。保志によれば、キラの人間的な魅力がもっとも花開いているのが、今作だという。 「『SEED』の時は、純粋でまだなにも知らなかった少年が、悩んで葛藤して成長していく姿が描かれていました。しかしキラ自身のとても複雑な生い立ちが『DESTINY』でわかり、物語を通してほかの人とはまったく違った成長の仕方をしました。ちょっと常人離れしたところもあるので、観ている人に感情移入されづらいと言うか、理解されにくかった面もあったと思います。ですが、今作のキラを観てもらえれば、キラの強さや弱さ、いろんなキラの魅力を感じてもらえるはずです。キラが『SEED』時代に戻ったかのような弱さを見せていたり、新しいキャラクターとのやり取りもあったりと、台本を読んだ時は個人的にちょっとショッキングでした。いままでキラという人間についてちょっと考えすぎてしまっていたかもしれないですね。それを含めて今回の劇場版は、キラという人物をより深く知るために、すごくいい物語だなと思います」。 ■「『もっと感情を爆発させていい』みたいな演出がありました」 今作では、アスランとの友情や青春を感じさせるシーンや、弱音を吐くシーンも出てくる。それらのシーンについて「ここにきて感情むき出しのキラを演じられたのは、ある種うれしかったです。それによって、キラ自身も成長できたなって感じました」と語る。 「感情を出すという部分で、いままで成長したキラを演じてきて、それが体に染みこんでいましたし、キラが弱さを見せるシーンも一つ大人になった部分を感じていたのですが、監督からは『子どもに戻っちゃっていい』くらいのことを言われて、『そうなんだ、キラはそこまで見せちゃっていいんだ!』と思いました。ただ、そうは言われてもなかなか難しい部分はあって、ずっとキラを演じてきて完全に『SEED』時代に戻ることは難しいけど、自分のなかで“あのころのような弱さ”という、落としどころを探っていった感じです。アスランと激しくぶつかるシーンがあるのですが、そこは『もっと感情を爆発させていい』『もっと弱さをさらけ出して』みたいな演出がありました。自分としては、最初は抑えがちでやっていたのですが、監督から『全然やっちゃっていいよ』と言われて」。 『DESTINY』から2年後の世界が描かれる今作。台本は分厚いものが2冊、アフレコは2回に分けて3、4人ずつで行われたとのこと。 「監督をはじめ制作に関わる皆さんに、キラの声を聴いてもらうのはすごく久しぶりという部分もあって、アフレコはとても緊張しました。前半のアフレコでは、オルフェ・ラム・タオ役の下野紘くん、シュラ・サーペンタイン役の中村悠一くんといった新キャラクターといきなり一緒で。ほかの現場では会っているけど、『ガンダムSEED』では初めての人たちばかりなので、とても不思議な気持ちでした。ラクス役の田中理恵さんとは一緒に録ることができなかったのですが、久しぶりに作品内で掛け合いをしたという意味では本当に何年ぶりだろうと、感慨深くてなんとも言えない感動がありました。後半のアフレコは、基本的にアスラン役の石田彰さん、シン役の鈴村健一くんとの3人チームで、そこにはちょっと熱いものを感じましたね。『DESTINY』でのキラは、アスランとシンとは違う陣営にいるのと、シンはキラのことを嫌っていたので、その3人が同じ方向を見て一緒に戦うシーンを録れてすごくうれしかったです」。 ■「僕としても観たかった、キラに対しての愛を明確に描いている」 モビルスーツによる白熱のバトルシーンや、戦争が引き起こす悲しい物語が展開されてきた本シリーズ。そのなかで様々な恋愛模様が描かれてきたことも魅力の一つとして知られる。例えばアスランとカガリ・ユラ・アスハやメイリン・ホーク、マリュー・ラミアスとムウ・ラ・フラガ、アンドリュー・バルトフェルドとアイシャ、ディアッカ・エルスマンとミリアリア・ハゥなど。「SEED」の序盤では、ラクスと出会う前のキラがフレイ・アルスターと依存関係になり、友人関係に亀裂が入ったたこともあった。今作の本ポスターには、キラとラクスがメインに描かれていることに象徴されているように、『DESTINY』では具体的には描かれていなかった、キラとラクスとの恋愛シーンもありそうだ。 「『ガンダムSEED』の本筋はラブストーリーというわけではありませんけど、刻々と変化する情勢のなかで、それぞれのドラマが展開されていきます。キラとラクスには恋とか愛とか、そういったものを越えたもっと大きな絆があって、だからこそあえて2人の恋愛を想像させるシーンが無かったのかもしれません。きっと多くのファンの皆さんは『キラとラクス(の関係)は大丈夫』と感じていたはずですし、僕もそう思っていました。だけど今作では、2人の関係を脅かすものが登場しますし、キラとラクスが相手に対する素直な気持ちを言葉にするシーンがあって、そこは大きな見どころになってきます。『DESTINY』までのラクスの愛は、ともすれば『ガンダムSEEDシリーズ』全体を包み込むような大きさでしたが、今回は明確にキラに対しての愛を描いてくれていて、そこはスッキリしたと言うか、僕としても観たかったものが観られてよかったです」。 『機動戦士ガンダム SEED FREEDOM』は、コーディネイターとして生き方を決められて生まれた者たちが、なにを信じてどう生きるか、そして誰を愛するか。命を賭して運命にあらがい、本当の自由をつかむ物語だ。 「テレビシリーズで最初に“フリーダムガンダム”が登場した時から、“自由”はシリーズを通したテーマとしてありますし、そのなかでキラは、自分のやれることをやってきています。だからこそ『FREEDOM』でも、そんなキラの姿を観て、感動したりなにか感情を揺さぶられてもらえたらうれしいです。『FREEDOM』の世界を、そしてキラとラクスの愛の物語を、ぜひ何度も観て楽しんでほしいです」。 1月29日(金)から全国書店や一部上映劇場、MOVIE WALKER STOREにて販売開始となる「MOVIE WALKER ムック 永久保存版『機動戦士ガンダム SEED FREEDOM』Special Edition 運命に抗う意志」では、メインキャストやスタッフ陣のインタビューはもちろん、シリーズの理解に欠かせないキーワード解説や、SEED好きの著名人たちからの熱いラブレターなどを掲載。是非とも入手して、『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』の作品世界をより深めてほしい。 取材・文/榑林史章