ウクライナ最前線の今 祖国に残る祖母に贈り物を…日本で暮らす親子がジャーナリストに託したもの【バンキシャ!】
日テレNEWS NNN
ロシアによるウクライナ侵攻が始まっておよそ2年10か月。ジャーナリストの横田徹さんが、戦闘が続くウクライナを2週間取材しました。最前線で起きている変化など、複数回にわたってお伝えします。今回はその第一弾。祖国を離れ、日本で生活をするウクライナ人の親子が、現地へ取材に行く横田さんに“あるもの”を渡しました。ウクライナに残る祖母に「届けてほしい」と託したものとは。(真相報道バンキシャ!) ◇ ◇ ◇ ウクライナから避難してきたユリアさん(29)。この日は、8歳になった娘・アリサさんの誕生日会だ。「おいしい」とケーキを食べるアリサさん。 2年10か月前に始まったロシアによるウクライナへの侵攻。人々は国の内外で避難先を探した。 ユリアさん(29) 「一番危険なのはウクライナで、それ以外ならどこでも安全だと思うようになりました」 ユリアさん親子は、日本にいる知人を頼り避難。2年7か月が過ぎた。来日後、日本人男性と再婚。長男レオくんを出産し、4人家族になった。 異国の地で取り戻した平穏な暮らし。しかし、気がかりなことがあるという。70歳の祖母・タマラさんがウクライナにいること。そこで、ユリアさんはウクライナの最前線へ取材に向かうジャーナリストの横田徹さんに、祖母タマラさんへの贈り物を託した。 ◇ ウクライナから日本に避難してきたユリアさんと娘のアリサさん。 アリサさん(8) 「どうして、いつもこの髪形なの」 ユリアさん(29) 「とてもかわいいから」 アリサさんは、今、公立の小学校に通っている。ほかの児童と同じ授業をうけながら、週に6時間、日本語を国際教室で学ぶ。 教師 「少ないとは、どういう意味でしょうか」 アリサさん(8) 「少し」 仲のいい友達もでき、笑顔も増えた。しかし、日本にきた当初は様子が違っていたという。 ユリアさん(29) 「花火大会のときに、花火の音を爆発音だと思ったアリサが『攻撃だ、逃げよう』と叫んだんです。ヘリコプターの音も怖がりました」 今は、おびえることもなくなった娘のアリサさん。しかし、ウクライナに残る祖母は…。 ユリアさん(29) 「爆発音やヘリコプターの音にストレスを感じて、血圧が上がり体調を崩すことがあるんです」 幼い頃から、タマラさんと暮らしてきたというユリアさん。ウクライナへ行く横田さんにタマラさんへの贈り物を託した。 ユリアさん(29) 「おばあちゃんも喜ぶと思う」 ジャーナリスト・横田徹さん 「持って行きます。おばあちゃんのところへ」 ◇ タマラさんが住んでいるのは、ロシアとの国境に近いウクライナ東部ハルキウ州。一部の地域がロシア軍に制圧され、今も戦闘が続いている場所だ。今年8月には、誘導爆弾による攻撃で、多くの死傷者が出た。 そのハルキウ州に入った横田さん。道中では、警報音が鳴り、「先ほどから頻繁に空襲警報がスマホに入ってきます」と話す。一番近いシェルターまでの避難を促す画面が表示されていた。この後も1時間おきに空襲警報が鳴ったという。 街に入ると、いくつもの建物に残る砲撃の跡。 ジャーナリスト・横田徹さん 「このマンションは、ほとんどが破壊されてます」 「ここはかつて幼稚園があった場所」 静まりかえった街。多くの人が避難し、今は住民がほとんどいないという。さらに、車を走らせること40分。 ジャーナリスト・横田徹さん 「この辺のはずなんですけど」 すると、青いコートを着た住民の姿が。ユリアさんの祖母・タマラさん(70)だ。ユリアさんが育った家の中を案内してくれた。 タマラさん(70) 「これはユリアが描いてくれたの」と説明した天井には、ユリアさんが描いた絵が。 タマラさん(70) 「アリサが着ていた服です。かわいいでしょ」 家に残るたくさんの思い出。ここにとどまると、タマラさんは決めた。しかし、ここでも…。 ジャーナリスト・横田徹さん 「空襲警報です。これはハルキウに飛んできてる」 空襲警報が鳴り響く。これがタマラさんの日常だ。ロシア軍の影をより間近に感じることも。 タマラさん(70) 「ロシアは偵察するようなものを上空に飛ばすんです」 ──ドローンですか? タマラさん(70) 「ドローンです。私は夜寝る前、神様に『ご加護を』と必ず祈ってから眠るんです」 この前の日にもドローンが飛んでいるような音を耳にしたという。 そのタマラさんに横田さんが手渡したのは、ユリアさんから託された贈り物。 タマラさん(70) 「重い、重いですね。きれいなカバン」 まず取り出したのは、日本のお菓子。 タマラさん(70) 「これはなに? 読んでもらえますか」 どんなものかわかるように、ユリアさんが手書きのメモを添えていた。 タマラさん(70) 「しょっぱいクッキーですね」 そして、ごまラー油も。 タマラさん(70) 「サラダにかける油ね」 メモには香りがいいサラダ用油。タマラさんがわかるよう、贈り物ひとつひとつに説明が書かれていた。 タマラさん(70) 「やきそば」 「熱湯を入れる」 「日本食を食べるだけじゃなく、作り方も覚えられますね」 そしてタマラさんの大好物も。 タマラさん(70) 「言葉にできないくらい好き。もっと欲しいぐらい」 この贈り物で、穏やかに日本で暮らしていると伝えたい。ユリアさんの思いが込められていた。足に持病があるタマラさんを気遣ったものも。 タマラさん(70) 「鎮痛、炎症、背中、腰、足。これは湿布ね」 「ありがとうございます。こんなにたくさん、びっくりしました」 ユリアさんも食べてきたタマラさんの料理。横田さんに振る舞ってくれた。普段からよく作るボルシチと、ユリアさんの大好物だという水ギョーザに似た料理・ペリメニだ。 タマラさん(70) 「おいしい?」 ジャーナリスト・横田徹さん 「おいしい」 タマラさん(70) 「よかった」 翌朝、「これはユリアにもらいました。とても柔らかくて暖かいんです」と、タマラさんはお気に入りの帽子をかぶり、向かったのは近所のスーパーマーケット。ユリアさんたちにお返しを買うのだという。2人を思いながら贈り物を選ぶ。 タマラさん(70) 「アリサにはチョコエッグを買います。おもちゃが入っているから、これも贈りましょう」 日本にいるユリアさんたちに贈るものは、お菓子におもちゃ、そしてユリアさんが着ていたウクライナの民族衣装も。最後にチョコエッグを入れて完成。 タマラさんは、「ユリアたちに渡してください。おもちゃもお菓子も詰めました。朝早くから、おばあちゃん買いにいったよ」「皆さんに神のご加護を。無事を心の底から祈っています」と横田さんに贈り物を託すと、涙があふれる。 タマラさん(70) 「『おばあちゃん、泣かないで』ってユリアがよく怒るの」 「戦争が終わりますように」 ◇ 11月25日。横田さんは、タマラさんからの贈り物をユリアさんに届けた。 ユリアさん(29) 「とても大きい。ありがとう」 贈り物の中を見たユリアさんは「いっぱい、いっぱい」、「これ、覚えてる」とウクライナの民族衣装を体に合わせる。 小学校から帰ってきたアリサさん。手にしたのは、タマラさんが最後に詰めたチョコエッグ。 アリサさん(8) 「これ食べてもいい?」 ユリアさん(29) 「いいよ」 久しぶりに食べる故郷のお菓子。アリサさんは「これ、私の大好きなチョコレートだった」と話す。 ジャーナリスト・横田徹さん 「よく売ってたよ、ウクライナの」 アリサさん(8) 「大好き」 ウクライナに残る祖母の映像を見るユリアさん。そこには戦渦で生き続ける懐かしい祖母の姿。ユリアさんの顔には笑みが。でも、「悲しい。前よりも痩せて年をとったように見える」と話す。 ウクライナに残るかけがえのない家族。再会の日は、いつになるのだろうか。 (12月22日放送『真相報道バンキシャ!』より)