〈目撃〉ヒグマがオオカミの群れになかよく合流、敵対するはずの捕食者同士がなぜ?
リスクとリターン
イエローストーンはハイイログマもオオカミも多いため、両種の交流は想像以上にある。 イエローストーンのハイイログマは秋によく目撃される。冬眠前にできるだけ多く食べようと出歩くためだ。食欲亢進(こうしん)期と呼ばれるこの時期、クマはより多くのカロリーを摂取するべく、オオカミの獲物を盗むといったリスクを冒すと、ノルウェー自然研究所でオオカミとクマの関係を研究するエイミー・タリアン氏は述べている。 「400メートルほど先の見えない場所に死骸があるかもしれません」とタリアン氏は話す。「リスクとリターンのバランスがすべてです。あの動画で見られる寛大さも含めて、結局のところ、そういうことなのです」 タリアン氏によれば、オオカミも同じような計算をしている可能性が高いという。ハイイログマを追い払って反撃された場合、群れの一部が負傷するリスクがある。 空腹のクマがカラスやピューマから獲物を盗むのは珍しいことではない。ハイイログマが獲物の死骸の上に横たわり、自分のものだと主張することもある。 ハイイログマは「腐肉食動物に近く、場当たり(日和見)的な採食行動をとります」とラム氏は補足する。もし動画のクマがオオカミの後を追っていたのだとしたら、群れにとっては「寄生生物のようなものです」 タリアン氏らが2021年に学術誌「Ecological Monographs」に発表したイエローストーンの研究では、クマがいるとオオカミの狩りが減ることがわかった。同時に、クマがいるときはオオカミが獲物の死骸のところで過ごす時間が長くなっていた。 これは、ハイイログマが群れの獲物を盗んだ後、食べ残しが出るかどうかを見るために、オオカミが待っているからかもしれない。オオカミはヘラジカなどの狩りによって負傷することがあり、再び狩りに出掛けるより、食べ残しを待った方が危険は少ない。
野生動物の観察にうってつけ
オオカミの群れと何週間も行動をともにするハイイログマがカメラに収められることはめったにない。しかし、イエローストーンはそれを見るのにうってつけの場所だ。タリアン氏がオオカミを見たことすらない北欧の深い森と異なり、イエローストーンの広々とした草原は野生生物の観察に最適だ。 「イエローストーンにはとても大きなオオカミの群れがいます」とラム氏は話す。「また、同じ場所にハイイログマがいることも珍しくありません。しかも、その場所は広々としており、周囲を見渡すことができます。ほかの場所では、そうした種間の相互作用を観察するのはかなり難しいでしょう」
文=KILEY PRICE/訳=米井香織