『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』S2E3、エマ・ダーシー×オリヴィア・クック圧巻の演技ラリー
ひとたび戦の火蓋が切って落とされれば、その端緒は忘却されるのか。『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』シーズン2第3話は、そんな普遍の問いかけから始まる。長年、河川地帯(リヴァーランド)で対立を続けてきたブラックウッド家とブラッケン家の若武者たちが遭遇。シェイクスピア劇さながらの開幕は、領土の境界線を定める置き石を動かしたという諍いから大殺戮へと発展する。ターガリエン王朝の正当性を問う大義名分が彼らに剣を抜かせたのだ。“双竜の舞踏”は後に“燃える水車小屋の戦い”と呼ばれる辺境の合戦から始まった。河岸を埋め尽くすおびただしい数の死体に目を見張らされる本エピソードの監督はジータ・V・パテル。ヴィセーリス王(パディ・コンシダイン)が大見栄を切ったシーズン1第8話で歴史劇の風格を見せ、今回は潤沢なプロダクションデザインをこれでもかと画面に収めて、シリーズに相応しい大作演出を披露している。第2話を手掛けたクレア・キルナーといい、女性監督がフロントラインに立つのも『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』の特色の1つだ。 【写真】『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』シーズン2エピソード3場面カット(複数あり) レイニラ(エマ・ダーシー)にとって地方豪族の暴走は制御のしようがなく、忠臣の集った評議会では全面戦争を避けようとする姿勢が指導力不足と捉えられる。開戦論は今や主流となり、大量破壊兵器であるドラゴンの使用を訴える者まで出てきた。両勢力が抑止力であるドラゴンを戦場に持ち出せば、古代ヴァリリア文明と同じ破滅の道を辿るのは必定。かつてレイニス(イヴ・ベスト)の口からは「女が王になるくらいなら、男どもは国を燃やす」とまで言われたが、シーズン2ではこの文脈がさらに掘り下げられている。 翠装派ではクリストン・コール(ファビアン・フランケル)が王の手に就任したことで、キングズランディングの空気が乱れ始めている。権力の卑しい追従者である彼に王の盾(キングズガード)らは侮蔑の眼差しを向け、評議会は品位と節度を失い、無能な男たちにアリセント(オリヴィア・クック)は頭を振るばかり。身の丈以上の重責を担おうとするクリストンが、就活生のごとく散髪を終えて出陣する姿にはぎょっとさせられるはずだ。虚無の眼差しを湛えるファビアン・フランケルは視聴者の苛立ちを一手に引き受ける妙演である。 その頃、デイモン・ターガリエン(マット・スミス)は単騎、ハレンの巨城(ハレンホール)へと降り立った。シーズン1で父と兄を謀殺した“内反足のラリス”ことラリス・ストロング(マシュー・ニーダム)の所領だが、密告者の長である彼は王都に常駐しているため不在。城代を務める大叔父(英国演劇界の重鎮サイモン・ラッセル・ビールが演じる)はデイモンの来訪にあっさりと膝を折り、恭順した。デイモンの虚栄心は留まるところを知らず、自身を王配殿下ではなく“陛下”と呼ばせ、ついに王座への尽きぬ野心を剥き出しにする。ハレンの巨城の成り立ちについては前回記事でも紹介したところだが、ウェスタロス有数の心霊スポットでもあるこの城でデイモンは斬首されたジェヘアリーズ王子と、10代のレイニラを幻視する(前シーズンで好評を博したミリー・オールコックが再演)。デイモンは今なお妻に少女を求めているのだ。