〈奥能登豪雨〉迫る濁流「出られない」 輪島・久手川、安否不明の中3女子
●同級生に写真とメッセージ ●父「捜索続く限りここに」 激しい濁流が真下に迫っていた。奥能登を襲った豪雨で安否不明となっている輪島中3年の喜三翼音(きそはのん)さん(14)=輪島市久手川(ふてがわ)町=は21日午前9時47分ごろ、自宅の窓越しに撮影したとみられる写真を、同級生の男子に送っていた。画像とともに届いたのは「うちの家、もう出られないよ」とのメッセージ。その後、翼音さんの自宅は建物ごと流されたとみられ、連絡は途絶えた。 【写真】翼音さんが同級生に送った写真。土砂がすぐ下まで迫っている 男子生徒は21日午前9時22分ごろ、スマートフォンから「おはよう」「雨すごいね」とのメッセージを翼音さんに送った。すると、翼音さんからは「やばくない?」などの言葉とともに、濁流や折れた木、壊れた建物などが写った画像が届いた。 翼音さんが思った以上に危険な状況にあると知り、男子生徒は「土砂がなくなるまで家から出られないじゃん」と送信。「たぶんそう?かも」との返信を最後に、翼音さんからの連絡はない。 男子生徒は、翼音さんと中学校に入る前からの知り合いだった。「頭が良くて、絵が上手で、話していて面白い子」。豪雨前日の20日も会話を交わしたという。 23日、男子生徒は久手川町の捜索現場を訪れ、「もう一度、話したい」と無事を願った。現場には別の同級生の姿もあり、手で顔を覆う生徒もいた。 ●顔写真入りチラシ、隊員に家族が配布 久手川町周辺では、翼音さんを含む3人の安否が分かっておらず、23日は警察や消防、自衛隊が400人規模で朝から捜索に当たった。 翼音さんの家族は、捜索の参考になればと、本人の顔写真入りのチラシを隊員らに配布。「何とか見つかってほしい」と現場周辺を歩き続けた。 捜索は午前8時過ぎに始まり、安否不明者の自宅があった場所から下流にかけて広範囲で行われた。隊員らは泥だらけになりながら、手作業や重機で建物の残骸や流木をどかした。 翼音さんの父鷹也(たかや)さん(42)によると、翼音さんのチラシは親族が作成し、顔写真のほか、身長や髪形などの特徴を記した。鷹也さんは「捜索してくれる人に少しでも情報を渡したかった。捜索が続く限り、ここにいる」と話した。 ●朝市で祖父手伝う 翼音さんの祖父誠志さん(63)は輪島塗の職人で、輪島朝市に店を構えていた。翼音さんは中学1年の頃から接客を手伝い、誠志さんは「しっかりしていて、朝市のメンバーにも知られていた」と話す。 元日の地震による火災で朝市の店舗は焼け落ち、誠志さんは野々市市に拠点を移した。金沢市内の高校への進学を目指していた翼音さんは、祖父を手伝いながら通学すると話していたという。