中銀デジタル通貨(CBDC)による国際決済実現にはまだ長い道のり:BISが実証実験を開始
7中央銀行が参加する「プロジェクト・アゴラ」
国際決済銀行(BIS)は4月3日に、中銀デジタル通貨(CBDC)の国際決済での利用に向けた実証実験を始めることを発表した。参加するのは、フランス銀行(ユーロ圏を代表)、日本銀行、韓国銀行、メキシコ中銀、スイス中銀、英国中銀、米国連邦準備制度理事会(FRB)の7中央銀行だ。それ以外に、国際金融協会(IIF)を通じて民間金融機関にも参加を呼び掛ける。 この実証実験は、古代ギリシャで「広場」を意味するアゴラの名を取って「プロジェクト・アゴラ」と名付けられた。実証実験では、民間部門の銀行預金と公的部門のCBDCとが、いかに切れ目なく統合されるかを検証するという。また、「技術的なテストだけでなく、特定の運用や規制、法的な条件の下で事業を行う金融機関とともに実施する」とBISはコメントしている。 また、このプロジェクトでは、現在の国際決済制度が抱える課題を克服することが目指される。課題とは、各国間で異なる法制度及び規制、時差、マネロン対策、顧客の本人確認に関わる規制への対応などだ。
中国と暗号資産との対抗を意識
BISがこの「プロジェクト・アゴラ」を始めるのは、将来的には主要国がそれぞれ発行するCBDCを貿易決済など国際決済で利用することを視野に入れているためだ。しかしそれが実現するのは、まだかなり先のことである。 先進国でCBDCを導入した国、あるいは正式に導入を決定した国はまだない。しかも、各国で現在検討されているCBDCは、現金の代わりとなるような、主に個人が利用するリテールCBDCである。他方、国際決済での利用で想定されるのは主に企業間での決済、いわゆるホールセールCBDCであり、仕組みもリテールCBDCとは異なってくる。 それにもかかわらず、主要国のCBDCの国際決済での利用について実証実験を行うのは、第1には中国を強く意識しているからだろう。中国は、主要国の中ではもっともCBDCの発行に近づいている国だ。しかもCBDCの正式スタート時点から、国際決済での利用を検討している。 CBDCを用いた国際決済システムで、中国にスタンダードを奪われないよう、先進国は、実現はかなり先であっても、今から設計に関する議論と実証実験を進めておく必要があると考えているのだろう。 第2は、暗号資産(仮想通貨)が国際決済に広く利用されることをけん制する狙いがあるのだろう。現在の国際決済、国際送金は、送金情報伝達を担う国際銀行間通信協会(SWIFT)などと、コルレス銀行(国際送金の中継点となる銀行)から成り立っている。 しかし、国際送金に多くの機関が介在することなどで、時間とコストがかかってしまう。そのため、こうした銀行システムを利用せずに、暗号資産を使って国際決済を行う利用者が増えている。しかし、暗号資産での国際決済は、顧客確認の不徹底などから、マネロンなど犯罪に利用されやすいという問題がある。 そこで、CBDCを利用することで、いつでも瞬時に、そして低コストでの国際決済を行うことが可能となれば、問題が多い暗号資産での国際決済を減らすことができる。 さらにCBDCであれば、即時決済が可能となるため、決済プロセスで銀行の債務不履行が生じてしまうことも回避でき、銀行システムの安定にも寄与する。