「罪悪感や後ろめたさがあった」 僧侶でメイクアップアーティスト…国際的に注目されるLGBTQ活動家の原点とは
日本語、英語、スペイン語を操り、僧侶、メイクアップアーティスト、LGBTQ活動家という独特の視点で「性別も人種も関係なく、みな平等」というメッセージを発信する西村宏堂さん。2021年には、アメリカのタイム誌「Next Generation Leaders(次世代リーダー)」に選出されています。国際的にも注目を集めている宏堂さんに、お話を伺いました。 【写真】ミス・ユニバースの世界大会などでメイクアップアーティストとして活躍する西村宏堂さん 実際の様子 ◇ ◇ ◇
広報サポーターの「法然と極楽浄土」が好評 トークイベントも満席に
東京国立博物館平成館で、6月9日(日)まで開催中の特別展「法然と極楽浄土」東京会場の広報サポーターを務めている宏堂さん。 法然による浄土宗の立教開宗から、弟子たちによる諸派の創設と教義の確立、徳川将軍家の帰依(きえ)によって大きく発展を遂げるまで、浄土宗には850年に及ぶ歴史があるそうです。今回の展覧会は、それらの歴史を全国の浄土宗諸寺院などが所蔵する国宝、重要文化財を含む貴重な名宝によってたどるもので、東京、京都、九州を巡回します。 困難な時代に分け隔てなく万人の救済を目指した法然と門弟たちの生き方や、大切に守り伝えられてきた文化財に触れる貴重な機会です。 浄土宗といえば、私自身は東京・増上寺や京都・知恩院には初詣などでお参りに行きますが、基本的に無信心。難しい内容の展覧会なのかしらと思っていましたが、展覧会は好評を博し、宏堂さんが出演する5月末に開催予定のトークイベントもすでに満席の人気ぶりです。
自身のセクシュアリティに悩んだことも 法然の教えで救われた宏堂さん
僧侶でありながら時代の最先端で多彩な活躍をする宏堂さんは、法然上人や浄土宗をどうとらえているのでしょうか。 「法然の教えが今の私を作ったと言っても過言ではありません」という宏堂さん。 宏堂さんのプロフィールを簡単にご紹介すると、1989年東京生まれ。実家は都内にある浄土宗寺院です。アメリカ・ニューヨークのパーソンズ美術大学でファインアートを学んだのち、自分のルーツを知るために浄土宗の養成道場に入行し、2015年に僧侶になりました。このとき、仏教があらゆるセクシュアリティを受け入れていることを学んだそうです。 宏堂さんには、自分のセクシュアリティを打ち明けられずに悩んでいた時代がありました。 「メディアでは、私が大好きなアニメなどでも同性愛者がバカにされるなど、いいイメージで描かれてばかりいたわけではありません。そのため、『自分は抱いたらいけない感情を抱いているのかな』と、罪悪感や後ろめたさがありました。 それに対して、みんなが平等に救われるという法然上人の教えは魅力でした。私も平等に人としての価値を感じていいのだ、生きていていいのだと感じるきっかけとなりました。法然上人に自信をもらったのです。上人は、どんな人でも救われますよという教えをいろいろな方法で残してきた方だと思います」 留学時代の経験や仏教の教えに後押しされて、両親にカミングアウトしたのは24歳のとき。「好きなように生きなさい」と両親に言われて、「白黒の世界に色ができた感じがした」と回想しました。 その後、ロサンゼルスへ拠点を移し、ハリウッドでヘアメイクを学び、メイクアップアーティストとして世界的に高い評価を得るなど、活躍の場を広げています。 僧侶であり、メイクアップアーティストであり、LGBTQ活動家という多彩な活躍をされていますが、これらはどこかにつながる共通項があるでしょうか? 「なんのために、お坊さん、メイクアップアーティストをやっているのかなというのが、大事かと思っています。 心と技術、両方がないといけないのだと。練習もして、心を込めて、その両方がそろっていなければ、人の心に触れることができないと、僧侶の修行のときも、メイクでもずっと感じていて、そこが大事だと思っています」 後編では、宏堂さんならではの視点で、特別展「法然と極楽浄土」の見方を語っていただきます。
横井 弘海