マイナ保険証へ「一本化」で“無駄な作業”が激増? デジタル庁と厚労省の“官僚”が従事する「何も生まないブルシット・ジョブ」とは
“あり得ない想定”のシミュレーションで「マイナ保険証は便利」とこじつけ
消防庁の調査結果をまとめた「令和4年(2022年)度 救急業務のあり方に関する検討会報告書」では、マイナ保険証が迅速な救急活動を妨げていることが明らかになりました。 車内収容から現場出発を比較すると9分41秒から16分43秒へと7分2秒もよけいに時間がかかるという結果が出たのです(【図3】参照)。 この調査自体が無駄に思えますが、まあ、それは置いておきましょう。この報告書はこれで終わらず続きがあるのです。 総務省・消防庁は、救急活動のじゃまになっているという結論で終わるのはマズイと思ったのでしょう。報告書の別のページで、マイナ保険証を使ったほうが速くなるというシミュレーションをしているのですが、その内容があきれるほどアホらしいのです。 このシミュレーションの前提となるシナリオは、「コンビニエンスストアに来店した80代男性の様子がおかしく、呼びかけに反応が鈍い」と店員から救急要請があったことに始まります。救急隊が現場に到着したときの状況は、店内の椅子に座っており、重度の難聴により意思の疎通は困難であったというものです。 「そんな人がマイナ保険証を取得して携帯しているのか!」…とツッコミたいところですが、まあ、そこはいいことにしましょう。 報告書では、この想定のもとに、「マイナ保険証を持っていない場合」と「持っている場合」の2通りのシミュレーションを紹介しています。 「マイナ保険証を持っていない場合」のシミュレーションでは、「身元を確認するのに手間取ったため、救急車が現場に到着してから病院に向かって出発するまで、約1時間半かかる」と結論づけています。 警察を呼んで、持ち物を捜査したところ所持品から氏名が判明。そこから身元照会を行い、家族に電話することができたが、しばらくつながらず、やっと連絡が取れて病院への搬送の許可を得られたのが1時間半後だったとのことです。「マイナンバーカードによるデジタル化が進んだ社会」では、意識がもうろうとしている高齢者を1時間半もとどめておくようです。 搬送先の病院も「身元が確認できないと受け入れない」という想定になっているのですが、実際のところはそれはあり得ません。ふつうの病院なら、目の前に死にそうな人がいれば、身元なんか関係なく、受け入れて治療するはずです。 それなのに、なぜか、「マイナ保険証を持っている場合」は、円滑に身元確認ができ、病院も受け入れを承諾してくれたため、約30分で病院に向かうことができたことにして、「マイナ保険証は便利だよね」という結論になっています。 消防庁のこの報告書は、A4サイズで140ページほどの大作です。このような具合に、マイナ保険証に合わせて社会を劣化させるようなシミュレーションに、文字数もかなり費やされているのがブルシット・ジョブのいい例です。 その他にも最近はマイナ保険証の推進ということで、政府は医療機関や薬局にトークスクリプト(台本)を作成して配布するというようなことをやっていますが、これも同じようなものです。医療機関や薬局と患者との間の信頼関係を損なうような役割しか果たしていませんし、ひどいケースでは「マイナ保険証がなければ診療や処方が受けられない」というようなデマを流す状況を生み出しています。
北畑 淳也(哲学系ゆーちゅーばーじゅんちゃん)
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