アメリカ文化としての「スポーツ賭博」
米大リーグ・ドジャースの大谷翔平選手の通訳を務めていた水原一平氏が3月に解雇され、銀行詐欺罪などで訴追された。今後数ヵ月のうちに連邦地方裁判所で判決が言い渡される見込みである。 水原氏がのめり込んだことで注目が集まっているオンラインのスポーツ賭博(ベッティング)について、日本では「違法性」が強調されている。だが、アメリカで広く利用されている小口のスポーツベッティングは事情が大きく異なる。 アメリカではもともと、スポーツベッティングを受け入れるような土壌があり、罪悪感が希薄であるほか、規制緩和が進んで大多数の州で合法という位置づけだ。スポーツベッティングが「一大成長産業」になりつつあるなか、むしろ問題なのは、水原氏がまさにそうであるように、スポーツベッティングが普及することで増えていく依存症のほうだろう。 アメリカのスポーツベッティングについての社会的・政治的な背景を考えてみたい。
違法性を強調することへの違和感
「国民的英雄である大谷選手の盟友である一平は、実はとんでもないやつだった」「水原容疑者に振り回され、大谷選手の成績に影響が出てしまいかねない」──。そんな見方から、水原氏の一連の事件は、日本では大きく報道されてきた。特に、昼間のテレビのワイドショーなどでは発覚してから長い間、連日取り上げられてきた。 捜査の過程で判明した、水原氏が大谷選手の銀行口座から金を盗んで不正送金したとして銀行詐欺などの罪に問われている点については、情報をみる限り、水原氏の容疑は極めて重いようにみえる。違法賭博で抱えた借金の返済のため、大谷選手の口座から賭博の胴元側に不正に約1659万ドル(約25億9500万円)もの大金を送金したということには、大きな衝撃を受ける。さらに、一連の流れのなか、それでも好成績を残す大谷選手のメンタルの強さと人間力には心から脱帽する。 ただ、今回の事件はあまりに例外的な事例であり、通常のスポーツベッティングの違法性について、日本で大きく報じられてきたことには違和感がある。通常のスポーツベッティングのサイトは、1試合で100ドル以上は賭けることができないため、水原氏はそちらではなく特別な闇サイトを利用していたはずだ。 アメリカでは規制緩和が進み、現在、スポーツベッティングは約8割の州で合法扱いである。水原氏が住んでいたのはそうでない2割のほうのカリフォルニア州であったため、「違法性」が強調されている。けれども3月20日に真っ先に水原氏の問題を取り上げ、同氏へのインタビューを掲載するなどして注目されたスポーツ専門放送局のESPN(本部はコネチカット州ブリストル)も、自らスポーツベッティングサイトを運営している。 誤解を恐れずにいえば、合法扱いではない州でも、「不法な賭博」ではあっても、日本でいえば競馬や競艇と同じようなものだ。スポーツベッティングそのものが人々の生活に浸透している。 (中略)