横浜FCがJ1復帰王手!両足に湿布8枚の41歳ベテラン中村俊輔の思い「頼んだぞと言われるカズさんをJ1で見たい」
特に松井と田代に代わって先発した俊輔と佐藤謙介は、サンガ戦ではともにベンチにも入っていなかった。J1昇格へ向けた荒療治とも、あるいは緊急のカンフル剤投入とも映る指揮官のさい配の意図を、俊輔は「ラストチャンスが来た、とみんな思っている」と受け止めている。 「ベンチ外から先発って、普通ならばなかなかない。これでまた負けるとか、ちょっとでもミスをすれば、ベンチにはすごい選手がいるわけだからね。だから、勝ち点とかが本当に気にならない」 加入した当時の俊輔のままならば、サンガ戦後に出番は訪れなかったはずだ。18試合連続の負けなしを継続していた最中で、慣れ親しんだトップ下ではなくボランチでプレーしてほしいと下平監督から要求された。しかも、指揮官が求めるボランチ像には独特の約束事が設けられていた。 マイボールになれば一人が最終ラインの間に落ちて、横並びから縦の関係へとスイッチ。相手との関係で立ち位置を横ずれさせながら、一発でサイドチェンジを図るリスクを伴ったプレーではなく、たとえるならば各駅停車のようにパスをつなぎながら、両サイドのスペースをうかがっていく。 下平監督は左に松尾、右には大卒ルーキーのMF中山克広(専修大)と縦へのスピードを武器とする若手を配置した。 2人の特徴を生かすための戦術だと理解していても、瞬間の閃きに導かれながら長短のパスを配球してきた俊輔は「違和感というか、ちょっと葛藤があった」と打ち明ける。 「横浜FCに染まろう、シモさん(下平監督)の考えているサッカーに染まろう、というのに多少時間がかかっちゃった」
ただ、こだわりを貫くのもプロならば、指揮官が求めるプレーをピッチ上で具現化させるのもまたプロとなる。ジュビロとの契約を延長して残留しながら、けがもあって出場機会を得られなかった時期に心中で繰り返した叫びを思い出しながら、俊輔は自身を新天地の色に染めた。 「名波さんのときにジュビロで出られなくなって、オレはこんなものじゃない、このまま終わりたくないと思って。それでカテゴリーを下げてでも試合に出たいと思ったら、実際にカテゴリーを下げても出られない。もう引退しかない、こんなものじゃない、というのがずっとあった」 5試合連続でピッチに立てず、そのうちサンガ戦を含めた2戦でベンチ外を余儀なくされたどん底も経験した。それでも心が折れるどころか、むしろ胸中に渦巻く危機感が身体を突き動かした。 「まだまだ上手くなりたい、という思いがあったからね。まあ腐る年でもないし、一生懸命に取り組んでいれば自然と調子も上がってきて、ボランチの位置でのボールの回し方とかもだんだん染みついてきた。いまは試合に出られているけど、それにプラスして、こういうサッカーもできる、という思いもある。逆に考えれば、そうした欲がなくなったら、もっと早くダメになっていたと思うよ」 ベンチ入りできるのは18人。激しい競争が繰り広げられるなかで、練習場内のロッカーが偶然にも隣同士になったFW三浦知良の一挙手一投足も目の当たりにしてきた。52歳の現役最年長選手は、下平体制になった5月以降はリーグ戦の出場がゼロで、ベンチ入りも3度にとどまっている。 「今日もメンバーに入りたい、入りたいと言ってめちゃくちゃ悔しがっていた。そして、毎回のように『頼んだぞ』と言われる。やっぱり練習からいっさい手を抜かないから、選手としての価値というか、そういうのが全然違うよね」 託された願いを勝利へ変えて横浜へ戻り、J1昇格をかけた愛媛との大一番へ向けた準備を積み重ねていく日々で訪れる時間も、俊輔は心待ちにしている。試合を微に入り細をうがって注視しているカズから、ファジアーノ戦の内容に関しても必ずサッカー談義をもちかけられるからだ。 「すごくありがたいことだよね。カズさんがJ1でプレーする姿、見たいですよね? オレらが見たいですよ。チームをJ1へ上げて、という意識はみんなにあると思うよ」 もちろんJ2の戦いを、最終節で対峙する17位の愛媛を甘く見ているわけではない。J1昇格をほぼ確実なものにしたと、安ど感を抱いているわけでもない。それでも、冒頭で俊輔が口にした「本当に勝負だから」の対象には相手チーム、ポジション奪回を必死に狙っているチームメイト、何よりも現状に満足することなく、さらなる高みを目指す自分自身が刻まれている。 (文責・藤江直人/スポーツライター)