フラメンコのルーツになったスペインの舞踊音楽「ホタ」とは?
スペインといえばフラメンコ。フラメンコといえばスペイン。世界的に知られたフラメンコは、スペインを代表する舞踊音楽であるのは間違いないが、同国には優れた民謡・舞曲がほかにも多数存在しているという。その中でも「ホタ」はフラメンコのルーツとも言われ、スペインが誇る代表的な舞踊音楽のひとつなのである。 ホタはスペイン東北部に位置するアラゴン州で誕生した。いつごろ始まったものなのかははっきりしないが、19世紀にはこの地に根付いていたと考えられている。そもそも「ホタ」とは古いスペイン語の「飛び上がる」という意味で、男性舞踊手が高い跳躍を見せるところがフラメンコと大きく異なる。リズムはおおむね3拍子で、稀な例を除けば長調でできている。また器楽と歌の部分が交互に置かれるなどの特徴がある。 ホタに影響を受けた芸術家も数多い。ハンガリー出身のフランツ・リストはピアノ曲「スペイン狂詩曲」の一部にホタを登場させ、スペイン音楽界ではサラサーテ(ヴァイオリン)やタレガ(ギター)の名曲にも採り上げられている。
ホタをテーマにしたドキュメンタリー映画『J:ビヨンド・フラメンコ』(11月25日公開)はフラメンコ三部作として話題を呼んだ『血の婚礼』(1981)、『カルメン』(83)、『恋は魔術師』(86)のほか、『フラメンコ・フラメンコ』(2010)などのカルロス・サウル監督が生まれ故郷のスペイン・アラゴン州への愛と敬意を込め、新たなゴールへ向けてアプローチした作品だ。 ホタと一言でいえども、ここで揃えたホタはじつにいろいろな表情を見せる。伝統的なもの、フラメンコ的なもの、現代風アレンジ、さまざまな文化と融合したホタの数々がオムニバス形式で綴られている。国際的に活躍するトップアーティストたちが登場し、素晴らしいパフォーマンスを見せてくれる。
また旋律の上をころころと転がるような細かい節回しの「ホタ歌い」の歌声には思わず聴き惚れた。どこか悲しげで感情的な歌詞なのに、伸びやかな高らかに響く歌声はなぜか明るく前向きだ。スペイン語がわからないので、歌詞は日本語字幕に頼り切りだったが、その名訳によって余すところなく情熱的かつ詩的な世界観が伝わってきた。 圧倒的な芸術性と熱い魂を見せつけらる一方で、ほっこりとした気分にさせられるものもある。少年少女がホタの基本ステップを学ぶ「ホタのクラス」や酒場で素朴な老カップルが軽やかなステップを踏む「大がめのホタ」、フィナーレの「祭りに繰り出す人々」は、地域に根付き、愛され、尊敬されている文化だと気付かされる。こういう部分については、日本にもあるかもしれないと、親近感が沸いてきた。 怒涛のように押し寄せる熱いホタのステージ。瞬きする間も惜しくなる。 『J:ビヨンド・フラメンコ』 11月25日(土)Bunkamuraル・シネマ他全国順次ロードショー