続く断水に「風呂なんて夢やなぁ」 頭から離れないひと言 社長は動いた
木材のプロ、風呂を作る
篠原さんは木材の加工・貿易業を専門とする会社の経営者です。 本社は東京都にありますが、妻の志津栄さん(50)の実家がある七尾市に帰省していて地震に遭いました。 「最初の3日間は、飲み水と食べ物が確保できるかという不安が大きかった」と振り返ります。 その後、災害支援物資が到着するなどして「命の危機は脱した」とき、「木材を加工する会社として、なにかできることはないか」と考えたそうです。 「最初は、屋根が壊れた家に雨漏り対策のブルーシートをかけるといったボランティアをしていたんです」 今、どんなものがあると嬉しいか。住民同士でそんな話をしていたとき、町会長の高澤知明さん(69)が、ふとこぼしました。 「風呂があるといいけど、風呂なんて夢やなあ」 その一言が頭から離れなかったという篠原さん。 「断水はいつまで続くか分からない。移動手段が無く、自衛隊の入浴支援を受けられない人だっている。だったら、俺たちで風呂を作ってみたらいいんじゃないか」 木造の建物なら、篠原さんの専門分野です。埼玉県にある自社の工場から必要な資材を運び込みました。 工期短縮のため、あらかじめ裁断・加工された木材を使う工法を採用。 1月12日に小屋の組み立てを始め、14日には仮設の入浴施設のオープンにこぎ着けました。 湯を沸かすためのプロパンガスや電装系の資材などは、篠原さんの知り合いの会社や地元の業者などからも協力があったといいます。 「多くの人の協力のおかげで、アイデアを実現できた」と話します。
水はどこから持ってくる?
しかし断水が続くなか、風呂に使う水はどうやって確保しているのでしょうか。 篠原さんによると毎日6トンの水が必要で、「水の調達には一番苦労しました」といいます。 最初の1週間は、3トンの水を運べる給水車で富山県の水道局まで出向いて水を運んでいました。 「往復3時間の道のりを2往復。毎日6時間以上かけて水をくんでいました。あれを続けるのは、正直しんどかったです」 その後、被災して営業休止中の市内の銭湯「ことぶき湯」が、無事だった井戸水を住民向けに無料で提供しているという話を聞き、そこから水をもらうことにしたそうです。 「本当に助かりました。これで、かけ湯を続けていける目処が立ちました」
自分にできることを
篠原さんは、仮設の入浴施設をつくった理由を「誰かの役に立ちたいという思いもあるけれど、一番は、自分もお風呂に入りたかったから」と話します。 震災から1カ月、東京で仕事をしながら、合間を見ては被災者の手伝いや小屋の運営のために石川へと戻る日々が続いています。 「月並みですが、困ったときはお互いさま。自分にできることで助け合えればと思っています」