『ゲイと女の5点ラジオ』しょうちゃん×ヴァジャが語る“どこにも属せない私たちの番組作り”
「5点の自分でも愛していこう」をモットーにしたポッドキャスト番組『ゲイと女の5点ラジオ』での活躍により、「第3回JAPAN PODCAST AWARDS」でベストパーソナリティ賞を受賞したしょうちゃんとヴァジャ。2023年10月からは、ニッポン放送で地上波ラジオ番組『しょうちゃんとヴァジャの BAR GOTEN』(毎週土曜 20時~21時)もスタートさせたふたりに、番組にかける思いや、番組で提唱する「ネオおばさん」というコンセプトについて話を聞いた。 【写真】しょうちゃんとヴァジャの撮り下ろしカット ・「自分たちはターゲットにされてない」既存のエンタメに感じた違和感からスタート ――地上波への進出、おめでとうございます! 10月からニッポン放送で『しょうちゃんとヴァジャのBAR GOTEN』がはじまりましたが、まずは率直な手応えを聞かせてください。 ヴァジャ:生放送の時間の感覚がまだまだつかめないというか。ポッドキャストだと後から編集もするので、時間を気にするという感覚がなかったんです。でも生放送のラジオは開始と終了の時間はもちろん「このトークが何分くらいで、ここでCMが入って」というのが全部決まっていて。まだちょっと慣れないですね。 しょうちゃん:私は「時刻を読み上げる」のがラジオならではだと思うので、もうとにかくそこを大事にしてます。 ヴァジャ:そこにそんなに力を入れてる人、ほかにいないよ(笑)。 ――ポッドキャストでは「最初のラジオ収録はかなり緊張した」とも仰っていましたね。 しょうちゃん:緊張してましたね。相変わらず緊張してますし、多分ずっと緊張してるんだろうな……。コンビニでお会計しているときも緊張している人なので、慣れることはないと思います。でも逆に慣れたら手を抜きはじめそうなので、これくらいがちょうどいいのかな。 ヴァジャ:私はなぜか緊張はしないんですよね。でも生放送の時間をうっかり間違えちゃう夢とかはすごい見ますし、「あれ、今日って土曜日じゃないよね?」と気になって何回も確認しちゃいます。それくらい「もしも行けなかったらどうしよう」という恐怖があって。収録にも結構早めに来ていて、番組開始は20時からだけど17時くらいにはこの辺りをウロウロしてます。 ――こんな人にラジオを聴いてほしい、というのはありますか? しょうちゃん:とにかく居場所がない人だったりとか、既存のコンテンツがなにも刺さらないという人に届けばいいな、と思っています。そこはポッドキャストのときとあまり変わらないですね。 ヴァジャ:普通に生活しているなかで、読みたい雑誌がないなとか、見たいテレビがないな、って思うことありませんか? 私がそうなんですけど、それって自分の感度が低いからなのかなと思っていたんです。でもあるとき、しょうちゃんと話していて「私たち、そもそもターゲットにされてなくない?」ってことに気づいて。 しょうちゃん:CMとかも、いまソシャゲの宣伝とかばっかりじゃないですか。あとは洗剤とか? まあ洗濯はしますけど、ゲームは全然しないから、なんて言うか「もうCMさえも私たちの相手をしてくれないのか」っていう。 ヴァジャ:それもあって、じゃあ自分たちが聴きたくなるような番組を自分たちで作ろうっていうのが、ポッドキャストをはじめた理由のひとつです。 ――ポッドキャストから地上波への進出という快挙に対して、周りの人から反響はなかったですか? ヴァジャ:私はしょうちゃんと知り合ったゲイバーの友だちにしかポッドキャストやラジオの話はしていないので、反響はほとんどなかったです。それこそゲイバーのママくらいかな。しょうちゃんは会社の同僚とか友だちにも伝えてるし、もうちょっと反応があったんじゃない? しょうちゃん:いやいや。思ったよりみんな褒めてくれないんだなっていう。 ヴァジャ:ラジオに出たけどあんまり褒められませんでした、って記事としてはどうなんだろうね(笑)。両親がすごい喜んでくれて、とかの方がいいと思うよ。 しょうちゃん:そうそう、両親はほんと喜んでくれました。「しょうちゃんよかったね、がんばったね~」って。まさかこんなかたちで親孝行できるとは思っていなかったですけど。 ・「5点の私たちのために、安心できる居場所をつくりたい」 ――先ほど少しお話もありましたが、ポッドキャストを始めるまでの経緯を教えてください。 しょうちゃん:元々は私が働いていたゲイバーに、ヴァジャさんがお客さんとしてやってきて。でも仲良くなったって言っても、あくまでも店員とお客さんの関係というか。 ヴァジャ:プライベートで遊んだりすることはなかったよね。でもコロナ禍でお店が営業できなくなったとき「お店のためになにか情報発信できないか」という話になったんです。正直、途中からママはあんまり乗り気じゃなかったんですけど、私はもうなんか「この機会に日本中に発信しよう!」みたいなモードになっていて。たまたま音響や音楽の知識があったので「こんな機材を使って、こんなことをしたら」とか、色々としょうちゃんに提案してたんです。 しょうちゃん:で、じゃあもうお店は関係なく二人でやろうよ、ということでポッドキャストをはじめたんです。 ――番組の方向性はどうやって決めていったんですか? ヴァジャ:人って他人には自分のきれいな部分を見せたがりますけど、面白いのは人に見せたくない部分、隠しておきたい部分だと思うんです。実際、私が人生で経験したいろいろな失敗をゲイバーで話すと、みんなめちゃくちゃ爆笑してくれて。ゲイバー以外では、そんなこと話せなかったんですよ。なんか恥ずかしいし、多分ドン引きされるだけなので。でも、しょうちゃんたちに話して笑ってもらったら、すごく救われた部分もあって。それで、じゃあそういう人の醜いところとか、恥ずかしいところ、100点満点でいえば5点くらいの話をみんなでしようよ、と。それで5点ラジオです。 しょうちゃん:リスナーさんからもそういう5点なエピソードを送ってもらって「私たちダメダメだけど、何とかやってこうね」っていう。なので冒頭では毎回「生きること、お疲れ様です」と挨拶しています。 ――番組内では「ネオおばさん」というコンセプトも提唱されていますよね。 ヴァジャ:30代も後半になってくると、「お姉さん」と呼ばれたときに、なにか気を遣われている感じというか、違和感みたいなものを感じると思うんです。かといって「おばさん」と呼ばれたいわけでもない。そんな話を二人でしてたんですよね。 しょう:その会話のなかで、なんとなく生まれたのが「ネオおばさん」っていう呼び方で。 ヴァジャ:本当はもっとカッコいい呼び方を考えたかったんですけどね。なにか横文字の。けど結局変えないまま、ここまで来ちゃったっていう。 しょう:前提として、私たちはおばさんたちのことをすごくリスペクトしてるんです。決しておばさんになりたくないわけじゃない。ただ、いまはまだ「おばさん」というカテゴリがしっくりこないので、その準備段階として「ネオおばさん」を名乗っているっていう感じです。 ヴァジャ:「おばさん」とは言っていますが、性別もあまり関係ないと思っていて。男女関係なく、自分の立ち位置がわからなくなる時期ってあると思うんです。年齢だけをみれば「おばさん」であり「おじさん」なんだけど、自分の感覚だったり、外見、社会的な立場がそこに追いついていかないというか。結婚していない人だと、特にそうじゃないでしょうか。 ――「私はひとりでも強く生きていく」といった決意を込めた言葉ではない、とポッドキャストで話されていたのも印象的でした。 ヴァジャ:そうですね。たとえば私、あんまり友だちがいないんですけど「友だちなんていらない」と積極的に思っているわけじゃないんです。結婚にしてもそうですね。主義として独りであることを選んできたのならそれはカッコいいですけど、私は気づいたら独りだったっていう感じなので。だから誰かと一緒にいたいときもあるし、話を聞いてもらいたいこともある。そういうときに通っていたのが、ゲイバーだったんです。なんの約束もしていなくても、そこに行けばとりあえず誰かが話を聞いてくれる。私たちのラジオやポッドキャストも、そういう場所になればいいなと思っています。 しょうちゃん:本当にそうだよね。私は元々、いつか自分のお店を持ちたいと思っていたのですが、それもやっぱり居場所がつくりたかったからで。いまやっているのはゲイバーじゃなくてポッドキャストとラジオだけど、「どこにも属せるところがないな」と思っている人に居場所を提供したいというのが、一番の思いかもです。 ――居場所をつくるために、意識していることはありますか? しょうちゃん:誰かを傷つけるようなことは言わない、ということですかね。なんていうか、ゲイと言えば毒舌みたいなステレオタイプってあるじゃないですか。 ヴァジャ:おネエ言葉で毒を吐く、みたいな。 しょうちゃん:そういうのはポッドキャストでもラジオでも絶対やりたくないんです。あとは下ネタも。とにかく誰も傷つけない配信っていうのは心掛けていて。やっぱり誰もが安心できる居場所をつくりたいので。 ・霊感商法に自己啓発セミナー……トークで「黒歴史をはやく換金したい」 ――ポッドキャストを続けるなかで、手応えを感じた瞬間はありますか? ヴァジャ:この回をきっかけにブレイクした、みたいなのは全然なくて。もう毎日地道なことをやってきただけなので。最初の頃は、Twitter(現X)で毎日100人フォローしたりもしていました。本当にジワジワとリスナーが増えていった感じですね。 ――そんな地道な努力もされていたんですね。 ヴァジャ:私たち、最初から絶対にこれを仕事にするって決めてたので。「好きだから趣味でやってるんです~」みたいなことではなくて。だから必死の営業活動を毎日してました。 しょうちゃん:毎月月末にヴァジャさんからレポートが届くんですよ。今月はこのくらいリスナーが増えました。でも、来月までにここまで増えなかったら、もうポッドキャストは辞めます、みたいな。もうとにかく厳しくて。 ヴァジャ:営業とかやったことないんですけど、レポートをつくりながら「私、もしかしてめちゃくちゃ営業に向いてるのでは」とか思ってました(笑)。 ――最初から仕事にすることを意識していたというのは、すこし意外でした。 ヴァジャ:趣味でなにかをやる、みたいな感覚がよくわかんないんですよ。多分、それは親の影響もあって。子どもの頃、結構いろんな習いごとをさせてもらったんですけど、ちょっと経つと「プロになる気はあるの?」って聞いてくるんです。それで「そこまで本気じゃないかも」と答えると、すぐに辞めさせられちゃうという。小学校5年生のときに、「音楽家か、書道家か、医者か、官僚か、どれになるか選びなさい」って言われて、ドン引きしたのを覚えています。だから「楽しいからやる」みたいな感覚がわからないままで、いまも趣味とか全然ないんですよね。 しょうちゃん:私はそこまで極端ではないですけど(笑)。でも、趣味であることを言い訳にしたくはないというか、どうせだったらお金をもらえるくらい価値あるコンテンツをつくりたい、というのは最初から思っていました。あとこれは番組でもよく話していますけれど、私は20代のころに自己啓発セミナーにハマって、時間もお金もたくさん無駄にしたので。そのことを面白おかしく話すことで「黒歴史をはやく換金したい」みたいなところもありますね(笑)。 ヴァジャ:しょうちゃんは自己啓発セミナーで、私は霊感商法。でも、いろんな経験をしておいてよかったと思います。一生ネタにできますからね。当時はそれどころじゃなかったですけど。 ――そういう経験をしているおふたりだからこそ伝えられることも絶対にありますよね。 しょうちゃん:どんなお悩みに対しても「正論」を吐かなくなった、というのはあるかもしれません。自己啓発セミナーで言われるがままに転職して、引っ越しして、挙げ句に借金まで背負って。そういう経験をしていると、クリーンなだけの「正論」なんてなんの救いにもならないことが身にしみてわかるんです。 ヴァジャ:綺麗ごと、言おうと思えば言えるんですよ。でも言っても解決しないのはわかってるからね。だから本当に思っていることしか言いません。 ・拒食症に苦しんでいるリスナーに、ヴァジャがかけた言葉 ――これまで番組を続けてきて、特に嬉しかったことはありますか? しょうちゃん:ポッドキャストは毎週月曜日に配信しているんですけど、「月曜日が憂鬱なのを乗り越えられるのは5点ラジオのおかげ」と言ってくださる方が結構多くて、それは嬉しいですね。 ヴァジャ:そうやって楽しみにしてくれてる人がいると、私たちにも居場所ができたような感じで嬉しいよね。 しょうちゃん:あとほら、拒食症のリスナーさんからのお便り。 ヴァジャ:あ~! あったねえ! しょうちゃん:すごくざっくり言うと、「拒食症で苦しんでます」っていうお便りに対して、ヴァジャさんが「体型じゃなくて髪のツヤとか気にしてみたらどうですか」って答えたんですよ。 ヴァジャ:髪のツヤってやっぱり栄養とか睡眠が大事なので、健康にならないと得られないんですよね。それに、どんなにスタイルがよくても、髪の毛がパサパサだとあまり印象が良くないじゃないですか。だから、特に深くは考えず、素直にそう答えたんです。 しょうちゃん:そしたら数カ月後にまたお便りがきて、「お陰様で拒食症が治りました」って。しかも「昔から夢だった飲食店を間借りではじめて、それが雑誌で取り上げられましたって」いう報告まで添えられていて。あれは嬉しかったよね。 ――めちゃくちゃいい話ですね……! そんなおふたりとリスナーが、これからどんな番組と作っていくのか、とても気になります。最後に、今後の展望や目標があれば教えてください。 ヴァジャ:もっと色んな場所でイベントを開催できたらいいなと思っています。まだ東京と大阪でしかイベントができてなくて、いろんな場所に住んでる方からウチにも来てくださいとお声がけいただいているので。 しょうちゃん:これ一本で食べていけるようになったらいいですよね。そのためにも、ぜひポッドキャストの方にもスポンサーがついてほしい……! 素敵な企業さんからのお声がけ、お待ちしています!! そして5点ラジオのオフィシャルストア『五点倶楽部』もよろしくお願いします。 ヴァジャ:私、子どものころからラジオが好きだったので、一通のハガキをきっかけに、なにかモノが生まれたり、大きなイベントにつながったり、みたいな流れにすごく憧れがあって。私たちの番組でも、リスナーさんからのふとしたメールとか、お便りをきっかけに、なにか形に残るものがつくれたらいいなと思っています。みんなで面白いねって言いながら、本気でふざけたい。スタッフさんやリスナーさんとともに、そんな番組が作れたらいいですね。
福地敦
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