世界の山ちゃん「立派な変人たれ」亡き夫の信念を継ぎ代表取締役に就任した専業主婦の妻の思い
夫の急逝で突然、社長になったのは、手羽先で有名な「世界の山ちゃん」の山本久美(56)さん。社員に頭を下げ、経営を学ぼうとした日々。たった1つだけ、言葉にした思いがありました(全3回中の2回)。 【画像】久美さんが毎月制作していた店内のかわら版「てばさ記」(非売品)で、会長の訃報を伝えた190号をイラスト付きで全文公開ほか
■企業勤めの経験がなく「イチから教えてください」と社員に頭を下げ ── 山本さんは2016年8月、創業者である夫の重雄さんの跡を継ぎ、エスワイフード株式会社の代表取締役に就任されました。プレッシャーも大きかったのではないでしょうか?
山本さん:何をしたらいいかわからず、プレッシャーを感じる余裕もなかったんです。私はもともと小学校の教員で、一般企業での勤務経験はありません。夫が創業し、代表取締役会長を務めていた株式会社エスワイフードの経営にもノータッチでした。 それでも2016年に夫が急死したあと、後を継ごうと決めたのは「夫が残した会社を守りたい」という一心からでした。取引先の方も、従業員の方も、私が後継者になったことで、社風を変えることなく会社を残せると喜んでくれました。
ただ、いきなりトップとして就任したため、周囲が何も教えてくれなかったんです。ふつうは転職するとまわりの人が指導してくれると思います。でも、代表取締役となると、周囲もどんなフォローをしたらいいかわからなかったようです。 ── その状態のままだと一歩も進めないと思います。どのように対応したのですか? 山本さん: これはまずいと思って、就任時、幹部の皆さんに自分のありのままの気持ちを伝えました。「私は本当に素人です。年齢を重ねた新入社員が入社したと思って、イチから教えてください」とお願いしました。
同時に、「会長がいなくなった現在、皆さんの力が本当に必要です。一緒に会社を成長させてほしいです」と伝えました。会長の意思を継いでいきたいというのが、私の一番の思いでした。
■「立派な変人たれ」会長の思いを経営の軸にした ── 山本さんが新しい経営方針を立てるのではなく、先代の意思を継ぐことに専念したのですか? 山本さん:就任当初から「私の役目は創業者で会長でもあった、夫の山本重雄の意思を継ぐことだ」と考えていました。会長は、経営方針からお店でお出しするメニューまで、全部ひとりで決めていたんです。