韓国・朴大統領の軍事パレード出席どう見るか 早稲田大学・重村教授に聞く
韓国大統領府は8月26日、朴槿大統領が9月3日に北京市で行われる「抗日戦争勝利記念行事」の軍事パレードに出席すると発表した。朴大統領がパレード出席に参加する理由と、北朝鮮の軍事的挑発から南北高官協議に至るまでの経緯について、朝鮮半島問題が専門の早稲田大学国際教養学部・重村智計教授に話を聞いた。(河野嘉誠)
ーー朴槿恵大統領の軍事パレード出席をどう見るか。 韓国と北朝鮮の軍事的緊張が高官協議によって解決した背景には、中国の大きな関与があった。中国は一貫して韓国を擁護し、北朝鮮に圧力をかけ続けた。北朝鮮は妥協的な交渉姿勢に転じざるを得ず、共同報道文も韓国に有利な内容で決着した。朴槿恵大統領の軍事パレード出席は、こうした中国の協力に対する見返りと考えられる。 ーー韓国にとって、どのような意味を持つのか。 軍事パレードへの出席により、韓国は抗日戦争の担い手として中国から認められる。そもそも、北朝鮮による軍事的挑発が本格化したのは、朴槿恵大統領の「抗日戦争勝利記念行事」への出席を阻止するためだった。実際、青瓦台(大統領府)が20日に朴大統領の式典参加を発表したが、北朝鮮はその直後に軍事境界線付近で二度の砲撃を実施し、「準戦時状態」を宣言している。 ーー北朝鮮はなぜそこまでして、朴大統領の式典参加を阻止したかったのか。 朴大統領の抗日式典およびパレードへの出席が、北朝鮮の国家としての正統性を動揺させ、クーデタも憂慮されるからだ。金日成の抗日パルチザンを建国の起源としている北朝鮮は、朝鮮半島における抗日戦争の唯一の担い手を自任している。中国に対して、朴大統領の招待を中止するよう再三にわたり要請してきたが、無視された。中国は韓国の平和統一政策を支持しており、北朝鮮の「ワガママ」に付き合うつもりはない。 ーー南北高官交渉では、自ら南北高官協議の開催を申し入れるなど、北朝鮮の妥協的な姿勢が目立った。 計算違いが生じ、弱腰に徹するほかなかったのだろう。地雷の設置など一連の工作活動は、最近になって大将に復帰した金英哲偵察総局長などが関与して実行された。北朝鮮にとっての誤算は、米中を味方につけた朴政権の強硬姿勢だった。軍事衝突に発展すれば、米韓同盟には敵わない。中国からの圧力も日に日に強くなる。北朝鮮としては本格的な衝突の回避に奔走するしかなかった。 ーー北朝鮮は、韓国の拡声器による北朝鮮向け宣伝報道にも過剰反応した。 北朝鮮の政治は、指導者への「忠誠心競争」が基本原理だ。将軍様の名誉を傷つけられて、放っておくわけないはいかない。とはいえ、北朝鮮は南北軍事国境線付近に設置していた拡声器を撤去してしまっており、再設置する資金もない。宣伝放送による反撃ができないため、軍事的挑発に踏み切るしかなかったという事情もある。 ーー共同報道文には、南北間の協議・対話の継続や民間交流の促進などが盛り込まれ、双方にメリットがあるとの評価もある。 有り得ない。共同報道文は、協議日程が明記されておらず、具体性に乏しい内容だ。地雷事件に関し、朝鮮語では「謝罪」のニュアンスが強い「遺憾」という言葉を使用させられるなど、北朝鮮側にとってはかなり不本意な内容となっている。また、韓国は「無条件での対話再開」は望んでいない。韓国人観光客が北朝鮮兵士に殺害された2008年の金剛山の謝罪と責任者処罰をしない限り、南北の経済交流の復活は難しい。