えげつなくて切ないM誕生の裏側『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』
復元された1954年に生きるギラギラの野心家とアイデア豊富なデコボコ兄弟
冴えないセールスマンから世界的ハンバーガー帝国を築き上げた、レイ・クロックを『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』でアカデミー賞主演男優賞候補のマイケル・キートンが、前向きな満面の笑顔にギラギラの野心をたぎらせる演技を見せつけてくれた。 マクドナルド兄弟の社交的でサービス精神旺盛な兄マックをジョン・キャロル・リンチ、慎重できちんと計画しないと気が済まない弟ディックをニック・オファーマンが演じた。実力派俳優で知られる二人は、どことなく似た雰囲気を醸し出す。仲の良かった本物のマクドナルド兄弟を現代に呼び寄せたようなリアリティーを感じさせてくれる。 ロケはアトランタとその周辺の町で行われた。1954年ごろのマクドナルドの店を実寸大で完全復元。店内のスタッフの制服も実際にその時代に使われていたものをオークションサイトで探し、忠実に作らせたという。マクドナルド兄弟の精神を受け継ぐマクドナルド3号店(カリフォルニア州ダウニー)は今なお営業を続けており、併設されているミュージアムもあったおかげで、古き良きアメリカの空気感を出すための資料には事欠かなかったという。
ファウンダーはえげつない人間か? それとも天才か?
自分では何一つ作り出していないレイ。マクドナルドがこれほど大きな企業になれたのは、ハンバーガーの味でも、効率のよいシステムでもなく、マクドナルド兄弟がもともと持っていた「あるもの」にレイが気付いたのがきっかけだった。「なるほど」とうなりたくなるほど、それはあまりにも“アメリカ的”で“輝かしいもの”だった。大きなビジネスチャンスとは、こんな小さな気付きがすべての始まりなのかもしれない。 レイをえげつない人間と見るか、天才と見るかは意見が分かれるだろう。創意と工夫で、マクドナルドの基盤を作り上げたマック&ディックは、小さな町で暮らしていくには十分な成功を収めていたけれども、大きなビジネスをやり遂げるには器の大きさが十分ではなかった。ビジネスとはきれいごとでは成り立たないということなのか。 しかしながら、現在は多少高くても本物が好まれる時代。今ならどちらのハンバーガーが消費者に選ばれるのだろうか? コストダウンや収益ばかりを気にする経営の裏話は消費者には少々しんどい話だが、経営サイドやビジネスパーソンにとっては大いに参考になる。商売成功の秘訣や格言が随所にたくさんちりばめられている。 マクドナルド創業時のハンバーガーはぜひとも一度、味わってみたい。しかし、得体の知れない粉末を水に溶いて作ったインチキなシェイクは遠慮しておきたい。
『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』7月29日(土)7月29日(土)、角川シネマ有楽町、角川シネマ新宿、渋谷シネパレスほかにて全国ロードショー 監督:ジョン・リー・ハンコック『しあわせの隠れ場所』『ウォルト・ディズニーの約束』 主演:マイケル・キートン『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』『スパイダーマン:ホームカミング』 (C)2016 Speedee Distribution, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.