〈トランプ貿易は論理より政権内部抗争〉掲げられた政策は偏見と矛盾の混乱、予測不能な交渉へ備えるべきこと
彼の側近には、中国との離反を望む者や逆に習近平との自由化交渉が可能だと考える者もいるだろう。トランプは、何のために如何なる手段を使うかにつき統一された計画を持たないで政権に入ると言う人がいるが、それは正しい。 また彼の役人達皆が同じ方向を向いている訳でないことも正しい。しかし、彼が今述べている多様な手段は、少なくとも政権内部の抗争が如何に戦われるかを判断する材料にはなる。 * * *
トランプ政権との交渉に必要なこと
11月5日の米国大統領選挙は、トランプの驚くべき勝利となった。一般得票でもトランプが勝っている(トランプ7264万票、ハリス6795万票)。上下両院でも共和党が過半数を制した。 上記記事は大統領選を間近に書かれたものである。ビーティはこの記事で、トランプの貿易政策は、論理より政権内部の抗争を通じて決まっていた、第二期政権でもそれと同じことになるだろう、「トランプの貿易政策は偏見と矛盾の混乱」だとの見方には一理あると述べる。 さらにトランプは「少なくとも5つの矛盾する、全く実現不可能な政策を掲げている」として、(1)すべての貿易相手国に対する関税を10%または20%引き上げる、(2)中国からの輸入品に対しては関税を60%以上に引き上げる、(3)連邦所得税を関税収入で置き換える(それは物理的に不可能だが)、(4)相手国の関税に相当する関税を課す「相互貿易法」を制定する、(5)時宜に応じてドル安を促進することを挙げる。 ビーティはトランプ第一期政権につき、EUはナバロとクドローの競争関係を利用し、より自由貿易主義のクドローを相手にすることにより米国の自動車関税引き上げを回避したと述べている。側近の間の競争関係は、程度の差はあれ何時の政権でも同じだが、ビーティが述べるような成功話は興味深い。
トランプ政権との交渉には狡猾な外交が必要だ。なお、貿易強硬派のナバロは、今年3月に議会の召喚拒否の罪で4カ月収監され7月中旬に釈放された。釈放の日にはミルウォーキーでの共和党大会に駆けつけ、分断的な演説をした。 第二期トランプ政権につきまず注視すべきは、政権の人事である。既に、イーロン・マスクを閣僚にするとトランプは述べている。事務レベルも随時決めるだろう。 しかし、トランプの任命第一基準は能力、識見というよりも忠誠心となる。新政権発足後に最初にすることは嘗て自分に手向かった者達のリベンジだと公言している。トランプは今回の勝利により一層自信を強めている。
不確実性への覚悟を
もう一つの問題は、トランプの貿易経済を含む政策の基本は変わらないということだろう。ビーティも示唆するように、トランプは真剣な政策の論理には関心も理解もなく、要するにその政策は側近達の人間関係の中で決まるであろう。 政策の間の整合性や目的達成方法の妥当性、多くのトレードオフの調整等はほとんど考慮されない。向こう4年は不確実性が高まる時期になることを覚悟すべきだろう。予測不能な貿易経済政策は、国内で、また関係国の間で大きな摩擦を起こすだろう。 日本等は、米国との協力が必要であり、それは利益でもある。日本も欧州等と共に一定の役割を果たしていくべきだろう。
岡崎研究所