藤井道人が自身初の国際プロジェクトをチャン・チェンと語り合う「この物語の感動を次世代の役者やフィルムメーカーに伝えたい」
『新聞記者』(19)、『ヤクザと家族 The Family』(21)、『余命10年』(22)など多彩なジャンルでヒット作を送り続けてきた藤井道人監督。藤井監督による初の国際プロジェクトで、台湾出身のアジアスター、シュー・グァンハンと日本の実力派女優、清原果耶をW主演に迎えた日台合作ラブストーリー『青春18×2 君へと続く道』が公開中だ。本作には、デビュー作の『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』(91)で注目を集め、近年は『DUNE/デューン 砂の惑星』(20)など話題作にも出演する俳優のチャン・チェンが、初めてエグゼクティブ・プロデューサーとして参加している。MOVIE WALKER PRESSは台湾での取材に潜入し、現地の媒体に囲まれた藤井監督とチャン・チェンが2人にとって「初」の挑戦が詰まった本作の誕生秘話を語り合った模様を伝える。 【写真を見る】藤井道人監督の“台湾の弟”、シュー・グァンハンと現場での仲良し2ショット ■「意見が合わない時に拒否するのは簡単だけど、1回(それぞれのアイデアを)やってみようと」(藤井) ――今回の日台合作について、藤井監督は台湾の記者会見で「撮影が終わってから、台湾で得たことを日本に持って帰ってこられたと実感しました」とおっしゃっていました。チャン・チェンさんにとって、なにか新しい発見はありましたか? チャン・チェン「原作はネットで掲載されている紀行エッセイで、僕の親しい友人でありプロデューサーの黃江豐(ロジャー)さんが約10年前に映像化の権利を取得しました。この長い創作の過程において、最終的に最適な監督、これほどまでに多くの最適な俳優に出会え、ようやく完成できました。この物語の感動を次世代の役者やフィルムメーカーに伝えたいと思いました。監督がおっしゃったように、日本チームが台湾に来て、台湾チームが日本に行き、こうして仕事をするなかで新しい化学反応をもたらしました。こういった交流は非常に重要なもので、フィルムメーカーにとって意義のある経験でした」 ――チャン・チェンさんはどんなプロデューサーでしたか? 藤井道人監督(以下、藤井)「キッズみたいな方です。クリエイティブに対してすごく真摯に向き合ってくれて。僕が中国語を喋れない時に、ジミーのセリフを全部言いやすくしてくれたのはチャン・チェンさんです。アフレコの時も、もっとこういうニュアンスのほうがいいんじゃないか?と意見をくれたり、クリエイティブ面ですごくサポートしてもらいました」 ――藤井監督の撮影現場はいかがでしたか? チャン・チェン「藤井監督は撮影のリズムがとても速い方です。撮影中に僕は頻繁には現場に行けませんでしたが、現場の雰囲気もとてもよく、台湾チームのみんなは監督と仕事ができて喜んでいました。打ち上げも楽しんでいました。2か月くらいの短い期間でしたが、最後にはみんなが別れを惜しむ関係となりました。とても貴重なことだと思います」 ――監督は台湾チームからの人気を感じましたか? 藤井「全然(笑)。やっぱ果耶ちゃんとか、映画に登場するカラオケの壁の絵を描いた僕の姉が大人気で、僕のスタッフたちも大人気でした。監督は多分きっと、『デビル』というか、『怖い』みたいな感じですね」 チャン・チェン「でも監督はイケメンだから大丈夫です」 藤井「いやいや、全然。グァンハンとか、チャン・チェンさんとかはからかって、いじってくれるんですが、ほかのスタッフは『次はどんな無茶なオーダーが来るのだろうか…』という顔をしていましたね(笑)」 ――グァンハンさんはどんないじり方をしてきたんですか? 藤井「覚えたての日本語を使って、いっぱいからかってくるんですよ。『なに待ち?』とか(笑)。去年、僕はシャネルのショーに出て、その隣が台湾のチームだったんです。多分たまたま(台湾の)メディアに出ていたからは、僕のことを“シャネル監督”って呼んでいじってくるんです」 ――撮影時の監督は厳しくて、まじめな感じですか?それともやっぱり、ラフな感じでワイワイしたいタイプですか? 藤井「全然ラフじゃないですね(笑)。無駄話とか大嫌いです。『もう撮るんだ!』みたいな。仕事中はすごいまじめ。ずっとモニターにねばりついて、タバコを吸いながら、『もう1回』『もう1回』みたいな感じ。鬼です(笑)。日本のチームはずっと見てきてるから、ある種、僕がいない時に、『監督、大変だよね』って言って、みんなが仲良くなってくというのがいつもの藤井組のスタイル」 ――チャン・チェンさんはそういうことで現場に行かれなかったのですか? チャン・チェン「みんなの監督のイメージを壊したくなかったんです(笑)。監督は非常に温かい方ですが、仕事の時は厳しいです。でも現場に行かなかった本当の理由は、監督に任せていたからでした」 藤井「演じたくなっちゃいますよね」 チャン・チェン「そうですね。そして監督と話し合いたくなってしまうと思います。でも監督は聞きたくないですよね?」 藤井「そんなことないですよ(笑)。でも現場でいろんな声があると撮影自体が大変になっちゃいますね。チャン・チェンさんはすごく役に立つアドバイスをたくさんくれたんです」 チャン・チェン「僕たちは基本的には撮影前の準備期間中にしっかりとコミュニケーションを取っていました」 ――準備段階で意見が合わなかったりしたことはありましたか? 藤井「自分のスタイルなんですが、意見が合わない時に拒否するのは簡単だけど、1回やってみようと。例えば、自分のアイデアも、チャン・チェンさんのアイディアも、どっちもやってみて選べばいいじゃないっていうスタイル。『絶対に嫌だ』とかそういうのは一切なかったです。例えば、本作の後半に、電車に向かってジミーが手を振って『再見(ザイチェン)』と言うシーンがあります。あれは現場でもそんなことは撮ってなくて。でも、チャン・チェンさんから、こういうセリフがあったほうが、別れのエモーションがもっと高まるんじゃないか?というアイデアがあったので、アフレコでトライしたんですよ。でもなんかちょっとオーバーじゃないかな…とか思いながらもやってみたら、意外とそれがよくて。それをそのまま採用させてもらいました」 ■「日本人が見ても、どこか懐かしさを覚えるような街並み、寺、森、海…いろんなものがある場所は台南」(藤井) ――36歳のジミーが日本を訪ねて電車に乗って旅をしているなかで、雪国に入るシーンがあります。台湾の観客のなかには、このシーンで思わず声を出してしまう方がいらっしゃるそうです。 藤井「うれしいです。やりたかったシーンの1つです。僕らにとって雪って煩わしいものというか。雪のせいで骨折したこともありますし、すっごい嫌いなんですけど、台湾の方たちはやっぱり雪がすごく好きです。雪は映画的にもすごくいい。雪の見せ方を今回は大事にしたくて、あのシーンはすごく苦労しましたけど、そう思ってもらえてよかったです」 ――結構撮影に時間はかかりましたか? 藤井「どちらかというと、あの瞬間が1日に2回しか撮れないっていう。それが、そこまでの準備で、何分に何秒後に(撮影チャンスが)来ますみたいな。だから、じゃあ10秒前、用意、スタートみたいな、そのタイミングのリハーサルとかが大変でした。もう1回勝負みたいな感じです」 ――日本の景色もとてもきれいですが、ロケハンは苦労しましたか? 藤井「時間かかりましたね。映画は原作のジミーさんが書いてくれた紀行エッセイとはちょっとルートが違うんですよね。ただ、そのルートで本当にこのようにたどり着くのかとか、そういう検証っていうのは、全部乗ってみて、止まってみて、結構大変でしたね」 ――台湾でのロケハンはいかがでしたか? 藤井「台湾は日本の何十倍も大変だったね。この原因は僕です!原作の舞台は嘉義(台湾南部、台南の北に位置する地域)なんです。嘉義に2回ロケハンに行ったのに、僕が『台南がいい』って言いだしました。嘉義もすばらしい街だけど、やっぱり日本人が見ても、どこか懐かしさを覚えるような街並み、寺だったり森だったり海だったり、いろんなものが台南のほうが多くて。『どう思う?』ってそのロケーションのスタッフに聞いたら、『私も台南がいいと思う』と言ってくれたから、じゃ台南で。そこからまた探し直したので、僕のせいですごい迷惑をかけました」 ■「我々2人が手を組むことにより、数倍の効果を生みだせたと思います」(チャン・チェン) ――ジミーが日本で出会った居酒屋店主のリュウもすごく印象に残っていますが、その役をなぜジョセフ・チャンさんをキャスティングしたのでしょうか? 藤井「僕はジョセフさんの大ファンです。リュウというキャラクターは、実はジミーが日本で初めて出会う旅人。彼がジミーに同じルーツを持つということにすごく意味があるという。僕はジョセフさんの映画とか、グァンハンさんも出演しているドラマ『罪夢者』とかが好きで、ダメ元でオファーしてみたら、出てくれました。そこはプロデューサーパワーですね(笑)」 ――チャン・チェンさんはどのようなプロデューサーパワーを使ったのですか? チャン・チェン「このプロジェクトの最初に、藤井監督に参加していただくことになり、そこから夢のようなチームへの道が築かれました。僕は藤井監督の作品『新聞記者』『ヤクザと家族』とかが大好きで、個性があり実力がある新世代の監督だと思っています。今回の『青春18×2』は日台合作の作品ですから、純愛ロードムービーに多くの異なるキャラクターが次々と登場するような、すばらしいキャスティングにしたいと思っていました。ジョセフさんに限らずですが、ジミーが出会う人々、台湾の家族も含め、皆さんベテランの実力派の俳優です。 今回、黒木瞳さんと黒木華さんという“W黒木さん”が出演していただいています。お2人とも僕の大好きな俳優です。これは偶然であり、ご縁であるとも思います。黒木瞳さんは、一昨年の金馬奨で台湾にいらした時に食事をして、直接オファーをしました。黒木瞳さんも藤井監督作品が大好きだということで、その場で監督に電話をして、出演が決定しました。そして、今回の楽曲はMayday(台湾の人気バンド)とMr.Childrenです。このような座組を築けたのは監督のおかげだと思います。そのために皆さんが参加してくれました。今回我々2人が手を組むことにより、数倍の効果を生みだせたと思います」 ――エグゼクティブ・プロデューサーとして、人脈を駆使し仕事をするのは、チャン・チェンさんの普段のスタイルとは違ったりするのでしょうか? チャン・チェン「このような立場で仕事をするのは、いまがちょうどいいタイミングですね。映画はある種、“継承”の意義があります。我々は次世代の監督や役者の間でいい橋渡しとなる必要があります。本作はすばらしい模範だと思います」 ■「グァンハンは現場でもカメラマンたちを惹きつける独特の魅力を放っていました」(チャン・チェン) ――監督はチャン・チェンさんが制作過程でご自分のアイデアを加えられたとおっしゃいました。18歳のジミーのロマンティックなシーンや告白のセリフなど、ご自身の経験も反映されていますか? チャン・チェン「私は経験と言えるものはなにもないです(笑)。仕事の時にはプライベートとははっきり分けています。そして、基本的に創作とは監督を尊重すべきものです。ですから監督の初稿脚本から、私はそれほど多くの変更を行っていません。いま皆さんがご覧になる完成版は元々の旅行エッセイにとても近い形のものです。こうして大きくは改変しない前提で、巧みに物語を調整する。それで十分だと思いました。セリフはあくまでも俳優から出されるものだから、グァンハンと調整を行いました。言い回しが非常に重要なため、なにか言いにくい場所はないかと、監督の元々の意味を改編しないという前提に、セリフをより自然に調整しました」 ――1人で18歳のジミーと36歳のジミーを演じ分けたグァンハンさんをどのように見ていましたか? チャン・チェン「俳優にとって、これほど長い時間をまたぐ役のお芝居をするのは難しいことです。グァンハンの出演が決まってクランクイン前から、会う度にそっと『おもしろい試練に挑戦できるチャンスだ』と言い続けました。観客からすると、以前ドラマで彼が演じた制服姿の高校生役のイメージが強く焼き付いていると思います。今回の作品を通じて彼の外見を変え、高校も大学も卒業し社会に入り大人になる。こうして観客のなかの彼に対するイメージを変えることができればいいなと思いました」 ――俳優の先輩としてグァンハンさんをどのような俳優だと思いますか。ご自身の若い時の特徴を彼から感じたことはありますか? チャン・チェン「とてもまじめな俳優です。本読みから現場まで非常に集中力が高く、そして聡明。私たちはそれほど似ているとは思いません。演じ方もあまり似ていません。でも共演したらおもしろいと思います。2人ともタイプも演技法も違いますが、演技における理念は近いです。もし共演できたらみなさんの想像を超えるものが生みだせると思いますね。彼は現場でもカメラマンたちを惹きつける独特の魅力を放っていました」 ――ご自身も出演したかったのでは? チャン・チェン「いいえ。今回は切り分けていました。プライベートで次回の作品はこんなことで演じるとしたら…などのお話は監督としましたが。今回は初めての合作で始まりです。いまは政府の国際合作に対する補助も多いですし、いいタイミングだと思います。もし藤井監督がほかの海外との合作などに興味をお持ちでしいたら、異なる場所には異なるプロジェクトがありますので、是非チャレンジしていただきたいです」 ――役者のチャン・チェンさんといつか一緒にタッグを組みたいという願望はありますか? 藤井「いつもありますし、いつもオファーしています。今回はプロデューサーとして作品に向き合ってくれるという話でした。次は主演でちゃんとオファーできるようにしたいなと思います」 ――チャン・チェンさんは再びエグゼクティブ・プロデューサーをやりたいと思いますか? チャン・チェン「企画と内容次第ですね。私の本業は裏方ではないので。でも製作の仕事には非常に興味があります。今回はプロデューサーとして様々な問題にも直面しましたが、それはいままで俳優として経験してこなかったことです。とても貴重な経験になりました。もし今後機会があれば、また挑戦したいです。資金面は私には不得手な部分で、別のプロデューサーに頼り切っていました。冗談でよく、私のコンセプトとしては、お金は使い切るもので、さらに多くのお金を手に入れ、もっと作品制作に使うというものです。お金はやりたいことを実現させるというものですと言っていました。ですから、いいエグゼクティブ・プロデューサーではないかもしれませんね(笑)」 取材・文/編集部