「父より怖い人に出会ったことがない」ヴァイオリニスト宮本笑里「師匠と弟子の関係」から親子に戻るまで
宮本さん:後にも先にも父より怖い人には会ったことがないというぐらい怖かったです(笑)。音楽に対してとにかく熱い人なので、しっかり教えてあげたいという気持ちがレッスン時に溢れ出てしまうんですよ。 たとえば、私の演奏のリズムがずれてくると、聞こえているのにわざわざ耳元にメトロノームを持ってきたり、本気モードに入るともう家壊れるんじゃないかと思うほど、足をどしどし踏み鳴らしてリズムをとったり。それが怖いし、思うようにできない悔しさで私がちょっとでも泣くと「泣いてる暇があったら練習しなさい!」と家中に響き渡るような大きな声で言われるのがお約束でした。
だけど、コンクールで結果を出せたり、いい演奏ができるたびに父の言うことは正しいんだというのを実感し、もっと上手くなりたいという気持ちに。ちなみに母は父と正反対でいつもふわふわしている人なので「お父さんはね、あなたのためを思って言ってるのよ」と優しく、おっとり言っていました(笑)。
■「音楽の世界は甘いものじゃない」と言っていた父が ── 「先生と生徒」という関係性はいつ頃まで続きましたか? 宮本さん:プロとしてデビューした後も「音楽の世界は甘いものじゃない。いつ必要とされなくなるかわからないんだぞ」とはっぱをかけられていたので、父に会うたびに身が引き締まるような感覚はしばらく続いていました。
変化がおとずれたのは、私が娘を出産し孫ができてから。それからは人が変わったように私にも優しくなり、やっと本来の親子関係に戻れたような気がします。 ── 宮本さん自身にも気持ちに変化はありましたか? 宮本さん:実は私も一時期、娘にヴァイオリンを教えていたことがあり、父ほどではまったくないのですが段々と熱心になっていく自分に気づいたことが。そのときに父もこんな気持ちで一生懸命私に教えてくれていたのかなと思い、懐かしむというかなんだか切ない気持ちになりましたね。