スズキ「フロンクス」の2WDと4WDに公道試乗! リアルワールドで感じた乗り味、使い勝手のいい部分と気になる部分
■ 発売前のクローズドコース試乗から待ちわびた公道試乗 4mを切る全長にマッシブなデザインをまとい、アフォーダブルな価格戦略でコンパクトSUVシーンに殴り込みをかけたスズキ「フロンクス」。これをついに、一般公道で試乗できた。 【画像】インドで生産されるスズキの世界戦略車となるフロンクス。ボディサイズは3995×1765×1550mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2520mm。車両重量は2WDモデルが1070kg、4WDモデルが1130kg そのヒストリーをざっくりおさらいすれば、フロンクスはインドのグジャラート工場で作られるスズキの世界戦略車だ。日本仕様はここから専用の足まわりやパワートレーン制御、そして安全技術が盛り込まれ、1グレードながら世界水準的には最上級仕様の形で逆輸入される。 ベースとなるのはかつて日本にも導入されていた「バレーノ」で、現行の最新プラットフォームを共用しながら、フロンクスはデザインコンシャスなクーペSUVへと生まれ変わった。 そんなフロンクスの駆動方式はFWDと、日本仕様のみ設定される4WDの2種類があり、自転車の国サイクルスポーツセンターでプロトタイプモデル試乗をしたとき、筆者は4WDの乗り味に軍配を上げた。 プロペラシャフトとリアアクスルを備えたことによる前後重量配分のよさ、60kgの重量増加に対する絶妙な足まわり剛性の向上。フロンクスの4WDはビスカスカップリングだから、通常時は後輪駆動のサポートはない。それでも筆者は、その安定したシャシーバランスとハンドリングのよさで、4WDを選ぶのはアリだと思った。 だが、しかし。今回の試乗ではFWDモデルのハンドリングがよりよく感じられたのだから、クルマは面白い。 そのハンドリングにはプロトタイプで感じた初期操舵の応答遅れがなく、車重の分だけ走りが軽快だった。そのあまりの変わりっぷりには思わず試乗後、統括チーフエンジニアである森田祐司さんに市販モデルとしての変更があったのかを確かめたほどだったが、残念ながら仕様はプロトタイプと同じだった。 ということで、考察である。 FWDモデルの印象がよくなった理由はまず、今回の試乗コース(千葉県幕張市周辺)がそのキャラクターに合っていたからだろう。カーブが少なく、平均速度も低い千葉県幕張市の一般道では、FWDモデルの足まわりでも、そのハンドリングにはキビキビとした操舵応答性が得られていた。ロールを生かしながら、スイッと曲がってくれる感じだ。そして乗り心地も、硬すぎず柔らかすぎず良好である。 信号待ちからの発進加速でも、出足はスムーズだ。ちなみにパワーユニットは1.5リッター直列4気筒の自然吸気エンジンに直流モーター(3.1PS/60Nm)を組み合わせたマイルドハイブリッドだが、FWDモデルは101PS/135Nmと、4WDの99PS/134Nmに対してわずかに高出力になっている。ちなみにその差は、エキゾーストの取り回しによるものだ。 ご存じの通りスズキのマイルドハイブリッドは状況に応じて電動アシストするタイプだから、ゼロ発進加速時に必ずしもモーターが加勢してくれるわけではない。よって、少ないアクセル開度でもスムーズにタイヤが転がるのは、前述した車重の軽さが、燃費走行の領域でエンジンおよびトランスミッションのマネージメントとうまくバランスしているからだろう。 街中はもちろん、高速巡航でさえ合流以外はアクセルを深く踏み込む必要はほとんどない。常用トルクの引き出し方が実にうまいパワーユニットだが、いざ踏み込んでみても自然吸気エンジンはストレスなく吹けていくし、モーターも気づかぬうちに、その押し出しを手助けしてくれる。 対して4WDモデルは、加速の鈍さが目立った。ただこれは車重の重さだけではなく、ATの学習機能のせいもあると感じた。不特定多数のジャーナリストが試乗する中、出足の鈍さにアクセルを大きく踏み込んでしまう状況が続き、低スロットル時のレスポンスがさらに鈍くなってしまったのではないか。 ならばとパドルでシフトダウンして、エンジン回転を高めて加速力を得ようとしたが、この6速ATはプロトタイプのときからダウン側のレスポンスが鈍い。スポーツモードを選べばあらかじめエンジンは回転を上げおくこともできるが、普段は普通に走りたいだろう。ならば燃費要件は厳しいとは思うが、トルコンATの制御は、もっと詰めた方がいい。ストロングハイブリッドがない以上、アクセルレスポンスの向上と総合的な制御の洗練は大きな課題だ。個人的にはその質実剛健な乗り味をして、海外にある5速MTを限定で入れてもよいとは思うけれど。 かたや乗り心地はFWDモデルよりも、どっしり落ち着いている。路面のうねりや突き上げに対しても押さえが効いていて、走り出してしまえば上質感は一枚上手だ。 高速巡航においても、その差はわずかだが4WDモデルの方が安定感は高い。特にカーブで操舵支援が入るときなどは、足まわりのシッカリ感によってカメラやセンサーが定まるのか、修正舵が少なく制御が安定していると感じる。 ■ フロンクスに期待するもの 駆動方式に限らずフロンクスで惜しいと感じたのは、インテリアが“カッコよすぎる”ことだ。「カッコよくて、何がわるいの?」と思うかもしれないが、ちょっとそのデザインは肩に力が入りすぎていると筆者は感じる。 金属フレームを模した樹脂パーツ、これを機軸にダッシュパネルはうねるような立体感で構成されており、見た目はプレミアム。その実素材はほとんどがハードプラで、ドアトリムにのみ合皮が使われている。そして路面によっては、このハードプラがビビってしまうのだ。 フロンクスはダッシュパネルの板厚を上げたり、インナーサイレンサーを多用したりして静粛性にはかなり気を遣っているはずだが、そのルックスとのギャップが少しばかり残念だった。 これはごく個人的な意見だが、もしそのインテリアデザインがもっと質実剛健で、ガジェット的でありタフギア的だったら、こうした微振動も気にはならなかったと思う。 指紋がつきやすいピアノブラックのパネルも、ボルドーの色使いも、ダンディに過ぎる。「ダンディってあんた、死語ですよ……」と思うだろうが、つまりはそういうことで、デザイン言語が古いと感じる。 インテリアデザインを弁護するならそれは、ボリューム感のあるエクステリアにトーンを合わせた結果なのだと思う。その全長は3995mmと非常にコンパクトだが、1765mmの全幅もあってフロンクスは全く小さく見えない。前後のツインフェンダーがバンパーまで回り込む造形は秀逸で、それでいて全高はシャークフィンを入れて1550mmと、タワーパーキングにもきちんと対応している。 そして何より、4.8mの最小回転半径がばっちり小回りをきかせる。 だからだろうフロンクスは、筆者の小言などものともせず国内で、すでに1万台の受注を達成している。むしろスズキとしては月1000台といわれる受注枠を大幅に超える盛況ぶりに対応することで大変なはずだ。 FWDモデルで254万1000円、4WDモデルで282万7000円という価格は一見それほど安くは感じられないが、先進安全装備である「スズキセーフティサポート」の各種機能はもちろん、9インチモニターやナビ、全方位カメラ、Qi(ワイヤレス携帯充電器)や前席シートヒーターが標準装備であるなど実質割安なことを、すでにユーザーは分かっている。ひねくれ者の一言を懲りもせず伝えるなら、「Apple CarPlay」「Android Auto」があるのだから、ナビを省いてさらに安く買える仕様もほしいところだけれど。 いま日本はインフレが顕著であり、対してわれわれの賃金は一向に上がらない状況が続いている。いざ日常の足となり、遠出もできる経済的なコンパクトカーを買おうとすると、改めてその値段には驚くばかりだ。 そんな中にあってスズキは、日本人のためのクルマ作りを本気で取り組んでくれるメーカーだ。フロンクスは、そうした希望の星の1つである。 だからこそ、いまはまだ足りない部分もあるけれど、勢いのあるうちにその走りを磨き上げていってほしい。
Car Watch,山田弘樹,Photo:安田 剛