「ロシアに蹂躙された失地を回復する」「ネオナチにウクライナが支配されている」ウクライナvsロシア「SNSいいね戦争」にみる両国のSNS運用の決定的な違い
ウクライナとロシアのSNS運用の違い
SNSによるウクライナ側の情報の発信は、ナラティブを世界に伝え、国際世論を味方にするうえでも大きな役割を果たしています。 ロシアのウクライナ侵攻直後、ゼレンスキー大統領が自国を捨てて逃げたとするロシア側の発表に対して、ゼレンスキー大統領は、SNS上ですぐさま反応し、「私たちはここにいる」と主要閣僚とともに、キーウから動画を発信しました。 このことは、ウクライナ国民の愛国心を高揚させ、国際社会によるウクライナへの支援を取りつけました。ウクライナ人から発信されている写真や動画情報は極めて多く、それらは地域におけるロシア軍の残虐な行為を世界に知らしめるとともに、地域住民がロシア軍の動向に関する情報を軍に提供する役割も果たしています。 これまでも戦場の様子などがSNS上に流れることはありましたが、このような意図的な行動はありませんでした。これは、戦場がウクライナ国内であり、一般市民がスマートフォンなどで撮影した画像をSNSに気軽に投稿することができる環境が整っていることも理由の一つでしょう。 ただし、このような市民による行為は、ロシア側にとっては、いわばスパイ行為であり、このことが、ロシア側が地域住民を逮捕して拷問などを行なっている行為につながっている可能性もあります。
SNS投稿を全面禁止したロシア軍
ウクライナ側がSNSを多用する一方で、侵攻したロシア軍の兵士からと思われるSNSへの投稿はあまり見られません。兵士の投稿を厳しく規制しているからです。ロシア軍で、このような規制が徹底されたのは、2014年のロシアによるクリミア併合の教訓によるものです。 2014年当時は、クリミアでは「リトル・グリーンマン」と称される徽章をつけていない覆面の武装集団が主要施設を次々と占拠していきました。ロシアはハイブリッド戦の一環として、親ロシア派の集団がウクライナ政府に反旗を翻してそのような行動をとっていることにしたかったのです。 しかし、これらの兵士の中には、スマホで自撮りしてSNSに投稿する者がいました。そのため、それらの写真からリトル・グリーンマンの中にロシア軍の現役の兵士が含まれることが次第に判明し、ロシアの工作活動の実態が明らかになりました。その教訓から、ロシア軍ではスマホの使用に制限が設けられました。 2019年2月には、その制限がさらに厳しくなり、兵士の軍務中におけるスマートフォンやタブレットの使用禁止、軍に関する話題をSNSへ投稿したり軍の話題をジャーナリストに話したりすることなどが禁止される法律が策定されました。さらにこのような情報統制は一般人にも拡大しています。このようにウクライナとは対照的にロシアはSNSを活用するよりも情報を統制する方法をとっています。 国民には情報を統制する一方で、プーチン大統領は自らメディアに向け発信したり、『RT』や『スプートニク』といったメディアの活用、IRA(インターネット・リサーチ・エージェンシー)といった民間会社による偽情報の作成により、ナラティブを発信・拡散しています。