チケット販売“前”に、早くも1億円の売上! ファミリーミュージカル「えんとつ町のプペル」にはどんな秘密が――「ヒット」と「運用」の関係性を、西野亮廣が徹底解説!
そもそも運用できるコンテンツじゃないと運用できない
自分達の話ばかりしてもしょうがないので、皆さんがよくよく知っている他の作品の数字についてもお話しさせていただきます。 「運用」と聞いて、僕の中でも一番最初に頭に浮かんだのが御存知『名探偵コナン』なんですけども、あのメガネ探偵ときたら毎年映画を公開しているじゃないですか? その歴代の興行収入をちょっと調べてみました。 コチラです。 ↓ ━━━━━━ 1997年 11億 1998年 18億 1999年 26億 2010年 32億 2015年 44億 2016年 63億 2018年 91億 2023年 138億 ━━━━━━ 初年度は11億円で、そこから微妙に上がったり下がったりしながら、ひたすら右肩上がりで、去年は138億円です。 パッケージ自体は変えずに、中身のストーリーを入れ換えて運用をし続け、今はもう国民行事になっちゃっている感じです。 「推理モノという圧倒的な普遍性をまとった運用しやすいコンテンツだった」というのもありますが、「運用に意識を向けた」というのが何よりも大きかったんじゃないかなぁと思います。 コナンの場合はそれでもストーリーが入れ替わっているから「新作を作っている」という印象を持たれるかもしれませんが、それなら、たとえばティム・バートン監督の『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』はどうでしょう? 今から30年以上前に発表された作品で、続編も出ていないのに、今も毎年グッズが新しく出ていて、それが人気なんです。 「運用してやるぞ」という執念すら感じます。 考えられないかもしれませんが、『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』って公開当時、そこそこコケてるんです。 日本の興行収入はたしか1.8億円ぐらい。 ディズニー作品ですよ? あれは、運用で巻き返した(再評価まで繋げた)名作なんです。 御存知のとおり、僕は今、クリエイティブのいろんな現場に行っていますが、どこの現場も「どうやって素晴らしい作品を作るか?」とか「どうやってお客さんを呼ぶか?」という話にはなるのですが、「この作品をどう運用していくか?」を話し合う時間は設けられていません。 とりあえずヒットさせることが先決で、誰もそこまで長期的に考えていないんですね。 でも、「そもそも運用できるコンテンツじゃないと運用できない」というのがあるので、「運用」という議題は、クリエイティブの一歩目から挟んでおくべきだと僕は思っています。 西野亮廣/Akihiro Nishino 1980年生まれ。芸人・絵本作家。モノクロのペン1本で描いた絵本に『Dr.インクの星空キネマ』『ジップ&キャンディ ロボットたちのクリスマス』『オルゴールワールド』。完全分業制によるオールカラーの絵本に『えんとつ町のプペル』『ほんやのポンチョ』『チックタック~約束の時計台~』。小説に『グッド・コマーシャル』。ビジネス書に『魔法のコンパス』『革命のファンファーレ』『新世界』。共著として『バカとつき合うな』。製作総指揮を務めた「映画 えんとつ町のプペル」は、映画デビュー作にして動員196万人、興行収入27億円突破、第44回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞受賞という異例の快挙を果たす。そのほか「アヌシー国際アニメーション映画祭2021」の長編映画コンペティション部門にノミネート、ロッテルダム国際映画祭クロージング作品として上映、第24回上海国際映画祭インターナショナル・パノラマ部門へ正式招待されるなど、海外でも注目を集めている。また「えんとつ町のプペル」は、ミュージカルや歌舞伎にもなっている。
TEXT=西野亮廣