現実がSFに追いついた? 『Zガンダム』の「360度見渡せる操縦席」を実現したF-35!
ロボットアニメで描かれたコックピットにまた一歩!
緻密なメカ描写で世代を超えて愛されるSF作品「機動戦士ガンダム」シリーズ、そのなかでも特に人気が高い「宇宙世紀」作品群において、象徴的な技術として君臨するのが「全天周囲モニター」でしょう。 【画像】コックピットの外側はこんな感じ あの時ハサウェイが乗っていたMSをチェックする(9枚) 縦横360度の視界を映像で投影し、死角を排除したこの革新的なコックピットシステムは、『機動戦士Zガンダム』で描かれた「グリプス戦役」の時点ではすでに一般的なものとして描かれていました。この「一般的」というのは敵味方問わずであり、ほぼ全てのMS(モビルスーツ)に標準装備されていることから、戦場における状況認識を飛躍的に向上させた「ゲームチェンジャー」となったのであろうことをうかがい知ることができます。 興味深いことに、現代の戦闘機であるロッキード・マーティン F-35「ライトニングII」には、全天周囲モニターの実現に大きく近づいたシステムが搭載されています。それが「EO-DAS(電子光学分散開口システム)」と「HMDS(ヘルメット搭載ディスプレイシステム)」です。 EO-DASは機体各所に6箇所、埋め込まれた赤外線画像センサーで構成されており、取得された映像は自動的に処理され、シームレスな360度視界情報に統合さます。この映像は正面のタッチスクリーン型ディスプレイだけでなく、HMDSのヘルメットバイザーに投影することで、本来は機体の死角となる部分も透かして向こう側を見ることが可能となります。 さらにHMDSは単に映像を投影するだけでなく、EO-DASやその他のレーダー、センサー、ネットワーク化された他機から共有される情報も処理、重ねて表示することができます。たとえば肉眼では視認困難な、雲の向こう側や長距離に存在する友軍機や敵機をシンボルとして表示したり、ミサイル接近警報を発したりする機能も備えます。
現実的な課題と展望 応用は戦闘機のみに非ず
従来の戦闘機では、コックピット内の複数モニターを注視する必要があり、レーダー画面上で敵機を捕らえていても、数十km先の航空機は実際には見えないという問題がありました。しかし、EO-DASとHMDSがあれば、パイロットは直感的に分かりやすい情報として、常に位置情報を把握でき、状況認識を飛躍的に向上させることができます。 ただし、バイザーに投影される映像の視野は、中心から20度から30度程度の限られた範囲であり、完全な全周囲の視野を得られるというよりは、穴から覗き見る程度である点は、今後の改善課題といえるでしょう。 EO-DASのようなシステムは今後、F-35以外にも多くの戦闘機に搭載されていくことが予想されます。しかし、ソフトウェア開発の高度化にともなう開発遅延や、AI導入によるミッションコンピューターの処理能力要求性能の高度化、複雑化、それにともなうコスト増加といった課題も存在します。2024年現在、実戦配備されているF-35の「ブロック3F」と呼ばれるバージョンの開発費は、実に9兆円(555億ドル)にも達しているほどです。 全天周囲モニター技術の応用は戦闘機に限らず、自動車や建設機械などの操縦システムにも期待されています。たとえば、車庫入れ時に360度の周囲状況を合成して表示する車載システムや、建設機械の安全性の向上、作業効率の改善、さらには自動運転への応用など、その可能性は無限大です。 このように、全天周囲モニターはSFの世界から飛び出し、現実のものとなりつつあります。今後、この技術がどのように進化し、社会にどのような影響を与えていくのか、目が離せないところです。
関賢太郎