科学者の傲慢さにとうとうブチギレ…自然科学の世界にガチンコの喧嘩を売った人類学者の「覚悟」
シェリー酒を飲みながら
そのような科学研究の対極にいたのが、人文学の研究者たちでした。しかしインゴルドには、彼らも彼らで独りよがりであるように見えました。図書館や保管された資料の中に頭をうずめたままで、現代の人間の条件を脅かす火急の問題に対応することができていないように思えたのです。 それと同時にインゴルドは、このままでは自然科学と人文学は互いに打ち解けられないと感じていました。当時、自然科学者と人文学者は、ほとんど言葉を交わしませんでした。「お前たちに俺たちの世界が分かるはずがない」と、お互いが接触を持とうとしなかったのです。インゴルドはその分断こそ、西洋の知の歴史の大いなる悲劇であると確信しました。彼はこうした違和感を出発点にして、この2つの伝統を統合した学問を探し始めたのです。自然科学と人文学をどのように一体化させるか。それはインゴルドにとって、自身の研究を貫通する重要な問題意識になります。 そんなことを考えるようになった大学一年生の終わりの頃に、シェリー酒を飲みながらチューターと面談した際に、人類学を専攻するのはどうかと勧められたと言います。インゴルドはチューターの話を聞くうちに、これこそ彼が探していた学問だと思うようになり、人類学の道に足を踏み入れたのです。 さらに連載記事〈日本中の職場に溢れる「クソどうでもいい仕事」はこうして生まれた…人類学者だけが知っている「経済の本質」〉では、人類学の「ここだけ押さえておけばいい」という超重要ポイントを紹介しています。
奥野克巳