ももクロ 玉井詩織はエンタメ界に欠かせない名バイプレイヤーに 演技派となるまでの軌跡
TBS系火曜ドラマ『あのクズを殴ってやりたいんだ』に出演中のももいろクローバーZの玉井詩織。ももクロの中でいち早く役者としての才能が認められ、数多くのドラマや舞台に出演している玉井の俳優としての魅力について注目してみたい。 【写真】「熱波師」となった玉井詩織 『あのクズを殴ってやりたいんだ』で玉井が演じているのは、結婚式当日に彼氏に逃げられてしまった主人公・佐藤ほこ美(奈緒)と同じかわさき市役所で働く同期・新田撫。明るい性格の撫は、ほこ美がカメラマン・葛谷海里(玉森裕太)に掻き回される姿を心配(楽しく観察?)し、また海里のアシスタントで同居人の相澤悟(倉悠貴)をゲットするという一見ちゃっかり者のキャラクターに見えるが、それだけではない。悟から海里の“人を殺した”という過去を聞き出したり、会食でほこ美のボディーガードのように付き添い海里のボクシングへの思いを喋らせるなど、ほこ美のために暗躍し、物語動かす狂言回しの役割も担っている。 玉井は、明るい性格と安定したパフォーマンスに加えて、「ももクロの若大将」と命名されるような多才な能力の持ち主だ。バラエティ番組では、MCや場を回す役回りを担い、メンバーの魅力を余すことなく引き出すことが多い。自分から前に出て目立とうとするのではなく、周囲の人を輝かせようと動ける人であり、玉井がいることで他のメンバーが自由に伸び伸びと動けている印象がある。それでいながら、舞台の座長など先頭に立つこともでき、主演を張ることができる器量もある。ももクロメンバーの中でも役者仕事が多いのも、演技力はもちろん、その人柄によるところも大きいのだろう。 玉井の転機となった作品は、平田オリザが高校演劇を描き、2015年に本広克行によって映画・舞台化された『幕が上がる』。本広のリクエストで当時のももクロ5人が平田のワークショップに参加し、演技を徹底的に学んでから挑んだ作品で、玉井は演劇部の看板女優でお姫様キャラのユッコを演じた。当時から平田は玉井の役者としての華に注目していたという。2022年5月放送のラジオ関西『平田オリザの舞台は但馬』に玉井がゲスト出演した際には、「玉井さんは優等生。うちの劇団にも出演してほしい。しゃべらなくても存在感がある」と改めて絶賛。玉井は当時を振り返り、「力を入れることは簡単だから、力を抜きなさい」という平田のアドバイスが、芝居だけでなくダンスや歌にも通じ、今の仕事に生きていると語っていた。 そんな玉井の演技力が発揮されたのが、2018年に放送されたNHKドラマ10『女子的生活』だ。志尊淳が演じたトランスジェンダー・みきの同僚・かおり役を好演。合コン好きな等身大のOLとして作品世界をリアルに浮かび上がらせ、主役の志尊の魅力も際立たせていた。 その後も2021年に映画とAbemaTVのドラマになった『都会のトム&ソーヤ ぼくらの砦』では天才ゲームクリエイター集団のプログラマー役でボーイッシュで高飛車なイケメンキャラに、2023年のスペシャルドラマ『ネバー・ギブアップ!~竹島水族館ものがたり~』(東海テレビ)では、仕事の疲れを水族館へ癒されに通うどこにでもいそうなメガネの地味なOL役を演じた。 配信ドラマ『さらば、銃よ 警視庁特別銃装班』(Lemino)では、銃刀法違反で捕まる元アイドルの人気配信者役として、手錠をかけられ護送される姿も。暗い表情で思いつめる芝居は素晴らしく、芝居の引き出しの多さを証明した。 そして20代ラストイヤーとなった2024年は、ドラマ『お迎え渋谷くん』(カンテレ・フジテレビ系) で主人公の俳優・渋谷(京本大我)が参加したオーディション作品の主役を務める俳優・千夏を演じた。愛花先生(田辺桃子)のことで心ここにあらずの渋谷くんが集中力を欠いていることを見抜くなど、真摯に芝居と向き合う俳優のリアルを演じきった。 『あのクズを殴ってやりたいんだ』では、市役所の職員・撫役として明るくゆるふわな感じがとても自然だ。そしてこのクセのない自然な明るさがあることで、相手が言いたくても言えない領域にズカズカと入ったり、余計なお世話をしても視聴者を嫌な気分にさせない。ただそれが無頓着のようで、実は相手を見透かし、意図的に動いているというのを垣間見せるところが撫を魅力的にさせている。まさに玉井が積み上げきたキャリアと演技力があってこそ成立したキャラクターだといえよう。 また、11月1日放送の『それぞれの孤独のグルメ』(テレビ東京)第5話のゲスト主人公にも決まった。緊張のデビュー戦に挑む新人熱波師・進藤由香里を演じる。『孤独のグルメ』といえば、数々の名バイプレイヤーが出演し、さりげなくドラマに花を添えるというオフビートな作品だが、今シリーズはそんな脇役にスポットを当てる新しい試みで『孤独のグルメ』の世界観を引き継いでいる。 これだけの人気シリーズで、井之頭五郎を演じる松重豊との共演となると単に人気や実力だけでなく、マキタスポーツ、板谷由夏、ユースケ・サンタマリアなど味のある役者たちが配役されているが、そこに玉井が抜擢されるというのは名バイプレイヤーとして認められた証拠だろう。 以前、三宅裕司率いる「熱海五郎一座」の 『東京喜劇「幕末ドラゴン ~クセ強オンナと時をかけない男たち~」』に出演した際には、作家の吉高寿男が玉井を「蠱惑的」(人の心を引きつけてまどわすような様子や、注意を引きつける様子を意味する)とパンフレットで評していた。色を消しても魅力溢れる人物を演じられる特異な人だけに、オフビートな世界観の中で、新人熱波師という汗の似合う一生懸命な役にも期待できる。
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