井浦新『おっさんずラブ』のパートナーと大河ドラマで“平安に父子として転生”?!演じ分けの次元が霊媒師レベル
父・兼家への尊敬の念に溢れた長男として
道隆のほうは、父・兼家(段田安則)の指揮の下、藤原家の地位を高めるための作戦を家族、全員、力を合わせて行った結果、兼家は摂政になり、息子たちも出世していくなかで、嫡男として粛々と働く。 井浦新は道隆を演じるに当たり、『大鏡』をはじめとした古典のなかから探った道隆像では、豪傑のように引っ張っていくイメージだったが、ドラマではいい感じのお坊ちゃんの長男で、押しは強いが、優しく、絶対的な父に敬意や脅威を感じているというふうに(大意)演じているそうだ(NHK公式サイトの『君かたり』より)。第9回の「父上の見事さに打ち震えた」というセリフは道隆の父・兼家への尊敬の念に溢れていた。
演じ分けの次元が違う、霊媒師のような俳優・井浦新
今年の1月から2月の間は、金曜日に『リターンズ』の和泉、日曜日に『光る君へ』の道隆と、兼務していた井浦新。全然違う役を演じ分けられる才能は、正直珍しくはない。役者はそれが仕事ともいえる。 だが、井浦の場合、演じ分けの次元が違う。霊媒師のように、自分のなかに役の魂を取り込んで、自分は容れ物として魂に語らせるような俳優だと筆者は感じている。 『リターンズ』では、登場時、驚くほどぼんやりと顔の力を抜いて、ものすごく頼りない四十代のおっさんになっていた。でも、あとからそれは世を忍ぶ仮の姿で、実は元・公安刑事で、危険な任務に従事していたというハードボイルドな人物だったことがわかる。そして、公安時代の回想シーンになると水を得た魚のように生き生きと熱を帯びる。 その切り替えにも魂が宿って見える。演じることをとても神聖にとらえているように感じるのだ。 『おっさんずラブ』シリーズはコメディ仕立てながら、人を想う気持ちの本気の度数だけは高く、その高さと熱量を、叙情性を、フィギュアスケートで技術点と芸術点を俳優が競い合うような恋愛競技大会のようなドラマである。 技術面も芸術面も優れ、その瞬間、役に奉仕するように演じる井浦は、シェイクスピア劇のように重厚に愛を演じる吉田鋼太郎とも互角で勝負していた。