どうして東京都で一番? 世界遺産の島・小笠原が“高齢化率最低”という謎
かつては人口3000人を目標にしたが…
600人と聞くと、そんなに多い人数には聞こえないかもしれません。しかし、小笠原村の人口は約2500人ですから、4分の1を占めることになります。小笠原村にとって、これは決して小さくない数字です。小笠原村役場によると、「リゾートバイトで小笠原に働きに来た人がそのまま定住するケースも珍しくない」とのことです。また、近年は小笠原に移住してくる人たちも多いようです。 そんな新島民が増えているため、小笠原村の人口はゆるやかに増加しています。人口減少に悩む市町村が多い中、小笠原村の人口増は羨ましく映ることでしょう。しかし、小笠原村も決して手放しで喜べる状況にはありません。なぜなら、10年前は人口約2330人で高齢化率は10.7%だったからです。 かつて、小笠原村は人口を3000人まで増やす目標を立てていました。現在、その目標はなにがなんでも達成させようとするものではなくなっています。人口が増えれば、住宅を建設し、道路や水道・電気・ガスの工事をしなければならないからです。そうしたインフラ工事が急速に進めば、小笠原の自然が破壊されてしまうからです。
滑走路見直し 空港建設計画進む中で検討されている地域振興策
豊かな自然を頑なに守ろうとする意志の強い小笠原村ですが、今年6月には丸川珠代環境大臣が小笠原諸島の空港建設を推進する旨の発言をしています。環境破壊にもつながりかねない空港計画をどう受け止めているのでしょうか? 「小笠原空港の建設は、本土復帰時からの悲願です。その理由は、なによりも小笠原の医療体制にあります。現在、小笠原村には有人島の父島・母島にひとつずつ診療所がありますが、大病院はありません。そのため、急病人対応が困難な状況にあります。小笠原村民の間でも何かあったときのために、緊急搬送が可能な空港の建設を望む声がありました。しかし、空港はあくまでも村民の命を守るために必要なのであって、観光客を増やそうという目的ではありません。観光客がたくさん来島できるように、ジェット機が就航可能な巨大な空港を建設すれば小笠原の自然は破壊されてしまいます。それでは、意味がないのです。」(同) 当初、空港の建設主体である東京都は、改善して観光客をたくさん呼び込むためにジェット機が発着可能な1800メートル以上の滑走路を計画していました。これらの計画は頓挫し、現在は地元・小笠原の意見を聞きながら新しい空港計画を進めています。空港の整備のほかにも、政府や東京都は小笠原の経済自立化政策や振興を打ち出し、小笠原で暮らしやすい環境づくりに取り組んでいます。 若者を集める起爆剤は、なんといっても雇用の創出です。小笠原村の基幹産業は観光業ですが、それらは個人事業主ばかり。多くの雇用を生み出すには至っていません。若者を呼び込むためには、大規模な工場や民間企業の誘致が不可欠です。小笠原村で、大規模な企業や工場を誘致する案は出ていないのでしょうか? 「小笠原村民2000人が住む父島は平地が少なく、その平地には、ほとんど民家が建っています。そのため、大規模な工場を建設できる余地がありません。さらに、島内は自然公園法に指定されている区画が多くを占め、そうした区画はむやみに開発できないことになっています。それらの要因もあって、工場を誘致できないのです。また、小笠原の基幹産業は、なによりも観光業です。産業を振興するために、守らなければなりません。仮に特区のような形で開発が可能になったとしても、大規模な工場を誘致して地域を活性化するという話にはならないでしょう。」(同) 行政としては人口が増えることは喜ばしいことですが、地域活性化を最優先にした闇雲な開発で人口を増やすことは小笠原にとって意味がないことなのです。 世界遺産の島・小笠原は、貴重な生態系が構築され、豊かな自然があふれています。それらを守りながら、地域を活性化させる。自然を守ることを最優先にした施策が若い移住者を魅了し、小笠原の高齢化の抑制につながっているようです。 小川裕夫=フリーランスライター