日本屈指の椅子マニア・織田憲嗣さんに聞く、北欧家具や手仕事アイテムの本物とニセモノの違いはどこにあるのか
「ハンディクラフト」のある暮らしはなぜ心地よいのでしょうか?北欧デザインを筆頭に、さまざまな手仕事を感じさせるアイテムと暮らす、織田憲嗣さんにその理由を尋ねました。 見えてきたのは、誰かが手を使い情熱を込めてつくったものを、愛着をもって大切に使う。何気ない瞬間に物から力や感動をもらう日々こそが、人生を豊かにするということでした。
北欧デザインをはじめ手仕事アイテムと暮らす織田憲嗣さんインタビュー
椅子1400脚以上、テーブル約70台、照明器具150点、その他にも数々の美しい日用品や文献を集め、世界的にも高く評価されるコレクションをつくり上げた椅子研究家の織田憲嗣さん。自邸にはコレクションの中心をなす北欧デザインの他に、民藝やアフリカのプリミティブな工芸品など、国や時代を超えた手仕事を感じさせるアイテムが集っています。そこはまさに“クラフト・ラグジュアリー”のお手本とも言える空間です。 「手仕事といっても、デンマークの椅子も現在は機械である程度まで量産しています。そうして価格を抑えつつも、接合部など最後の仕上げには、やはり職人の技術が必要になってくる。意図的に手仕事を見せようとはしていないけれど、使っているなかで『本当にこれは職人の手仕事から生まれているな』と感じる瞬間があります」 それは視覚というより触覚、0.1㎜と0.2㎜の紙の厚みの違いを感じ分けるような“手の目”の感覚を生かして、椅子を愛でる。機能を追求しつつも手業が極めて強く感じられる、いうなれば『有機的機能性』がある。 そうしたものづくりの結果として生まれる手仕事の素晴らしさの一方で、あえて手業やプリミティブに見せる表層的な加工をしているものには、疑問を感じてしまいます。ヴィンテージの家具の場合も、必ずしも古ければいいというわけではないのと同様です」。
北欧家具にアフリカのアートなどが美しく調和する空間
ボーエ・モーエンセンのデイベッド、アフリカの族長のためのベッド、李朝の金庫。工業用のコンクリートブロックでできた織田さんの家のリビングには、彼が選び抜いたさまざまなジャンルのものたちが美しく調和し、個性と温かみを醸し出しています。 「置かれるものの質によって空間の質が決定づけられると僕は信じています。イタリアモダン、フレンチモダン、スカンジナビアンモダン、どれもそれだけで成立するけれど、それでは味気ない。理屈で線引きしないで、自分が美しいと思ったらどんどん取り入れる。アフリカに限らず、パプアニューギニアのマスクやアボリジニの絵画などには、資本主義に侵されていない『無意識の美』が宿っています。日本の伝統工芸にもわら細工や竹芸をはじめ、素晴らしいものがたくさんあり、モダンな空間ほど、コントラストとしてプリミティブなアートや道具、手仕事の温かさがきれいに映えるはずです」 そうした異なる背景のものを選ぶときに大切な基準となるのは「本物であること」。そして本物を見抜くには「美しいものを見て、触れて、自分の目を養うこと」だと織田さんはいいます。 有名無名、金額の多寡にかかわらず、本物にこだわる。彼の家にはアノニマスのもの、捨てられていたのを拾ってきたものもあるそうだ。名作と呼ばれるものだけでなく、新しくデザインされたものでも、30年後も50年後も生き続けるだろうと思えるものは購入してきたそう。