F1ブラジルGPで28年ぶりに蘇ったアイルトン・セナと本田宗一郎の“伝説の約束”
ブラジル人だけでなく、日本企業のホンダにとっても、その思いは同じだった。なぜなら、ホンダにとってセナは特別な存在だからだ。もうひとつ、今年のブラジルGPを戦うホンダのスタッフたちの胸の中に特別な思いがあった。それは決勝レース当日の11月17日が、宗一郎の誕生日だったからだ。 ホンダのF1活動は宗一郎の当時は無謀とも思える挑戦によって、すべてが始まった。その挑戦によって、ホンダの技術は大きく成長。その後、世界的な企業へと躍進していった。 しかし、ホンダのF1活動は休止や撤退を繰り返し、必ずしも順調ではなかった。2015年にF1に復帰したホンダを待ち受けていたのは、厳しい現実だった。ホンダが復帰した前年にチャンピオンとなったメルセデスのパワーを見せつけられたホンダのあるスタッフは、「同じレギュレーションでパワーユニットを作っているのに、どうしたら、こんなに大きな差が生まれるのか?」と首を傾げるしかなかったほどだ。 最近5年間のブラジルGPの予選はいずれもメルセデスがポールポジションを獲得。今年もメルセデスが有利かに思えた。しかし、昨年から今年にかけて、ホンダのパワーユニットは大きな前進を果たしていた。予選でホンダのパワーユニットを搭載したレッドブルのマックス・フェルスタッペンがポールポジションを獲得。レースでも今年もチャンピオンを獲得し6冠を達成したルイス・ハミルトン(メルセデス)を寄せ付けなかった。フェルスタッペンの優勝だけではない。 この日のレースでは残り3周という段階で、ホンダのパワーユニットを搭載する3台のマシンが上位を独占。アクシデントに見舞われ、最終的にワン・ツー・フィニッシュに終わったが、ホンダ・パワーが28年ぶりにブラジルGPで炸裂した。 メルセデスのあるエンジニアは、ホンダのパワーユニットを次のように称賛した。 「インテルラゴスでホンダ・パワーは強力だった。それは高地によるアドバンテージもあるのだろうが、それだけがすべてではない。そのことは、レッドブルだけでなく、ホンダのPUを搭載するトロロッソもトップ3に入り、一時ホンダ・ユーザーがワン・ツー・スリーを独占していたことでもわかる。ホンダはものすごくいい仕事をした。ワン・ツー・フィニッシュは、その正当な報酬だ」 優勝したレッドブルのクリスチャン・ホーナー代表もこう言ってホンダを称えた。 「彼らがF1に戻ってきたときの状況を考えれば、この5年間の努力は並大抵ではなかったはずだ。しかし、彼らは見事にそれをやり遂げた。素晴らしい勝利だ」 そして、そのホンダをF1へと導き、今も天国から見守っている本田宗一郎にこう言って感謝した。 「本当にありがとうございます。そして、誕生日、おめでとうございます」 (文責・尾張正博/モータージャーナリスト)