大阪「堺七まちひな飾りめぐり」 ── 堺市の刃物店女性・亡き夫への想い
大阪府堺市堺区で「堺七まち ひな飾りめぐり」というイベントが開催されている。今年で5年目を迎える恒例行事で、3日は「ひな祭り」ということで多くの人が訪れては、きれいに飾られたひな人形などを見て楽しんでいた。そんな中、歴史ある刃物の店に飾られた、ひな人形が「きれい」と話題を呼んでいた。その店は、このイベント発起人である男性の店だが、男性は昨年病気で他界した。現在は、その妻や娘が意思を継ぎ今年もひな人形を飾る。男性の意思を引き継いで。
ズラリ刃物が並ぶ店内に大正時代のひな人形
同区桜之町西の旧紀州街道の通りには、古き良き町家も存在。その中で、多くの刃物が並ぶ、中二階建て歴史ある商家「水野鍛錬所」には、ひな人形などが多数飾られ、3日のひな祭りには、平日にもかかわらず多くの見物人が訪れていた。 「このひな人形は、大正時代のものなんです」と説明してくれるのは、同鍛錬所の水野照子さん(58)。中2階にも、自身のひな人形をはじめ、娘や孫のもの、近所の人が大切に保存していたひな人形など多く飾られている。 ひな祭りに合わせて来たという堺市内の70代の女性は「私らは男兄弟の中で育ったから、家にひな人形がなくてね。けど、こうやって囲まれるなんて、ほんまに来てよかった」と話す。また、別の女性も「中2階は上るの大変やけど、この雰囲気で飾られているひな人形は、普通に見るのとは全然違う。来て良かった」とうれしそうに話していた。 そんな様子を見ていた照子さんは「これ、主人が作ったんです」とひな飾りめぐりの地図を渡してくれた。地元の町家や店が多数参加し、盛り上がりを見せる同イベント。だが、その主人の康行さんは、もういない。「去年の8月、がんで亡くなったんです」
職人がいる伝統のまちで、ひな飾りめぐりを
堺市と言えば、600年の歴史を誇る「堺刃物」が有名。それらの鍛冶職人により作られたタバコ包丁を幕府は全国に販売し、それらの職人の多くが居住していた七つの町を、職人らは「七まち」と呼んだという。 同鍛錬所は明治5年に創業で、1947年の奈良・法隆寺大改修の時には、国宝である五重塔九輪にある四方魔除け鎌を、法隆寺の境内で「鍛鉄降魔」の古式を踏まえて鍛えたという歴史も持つ。4代目の水野康行さんは「堺刃物の切れ味を世界に広げたい」と仕事に打ち込んでいた。 そして、5年前。康行さんは「この町家とかを生かしてひな飾りめぐりをしよう」と発起人となり毎年開催運営に奔走していたという。だが2年前、肺がんが見つかった。辛い治療を進めながらも照子さんとの結婚30周年旅行にも出かけるなど元気に過ごしていたが、がんは背骨などにも転移。昨年8月に帰らぬ人となった。