小栗旬「人間失格」セリフの強さ、余韻が残る
小栗旬が主演する映画「人間失格 太宰治と3人の女たち」(蜷川実花監督)が13日に公開され、14・15・16日の3連休中の映画館を満員にし、ネット上でも話題を呼んでいる。作家・太宰治の半生を、妻と2人の愛人の愛憎とともに描いた。「ヴィヨンの妻」「走れメロス」「斜陽」に並ぶ代表作で、死の直前に書き上げた「人間失格」の誕生秘話が、事実をベースにフィクションとして紡がれる。蜷川氏独自の色彩感覚はもとより、演者が発するセリフ、言葉の持つ力も注目されるポイントとなっている。
ヤバすぎるセリフ集がYouTubeで配信
太宰役の小栗をはじめ、妻の美知子を宮沢りえ、愛人の静子を沢尻エリカ、富栄を二階堂ふみが演じ、実力派キャストの芝居はそれぞれ真に迫っている。 身重の妻と2人の子がいるのに恋の噂が絶えず、自殺未遂を繰り返し家庭を崩壊に向かわせてしまうスター作家の太宰。もし小説がなければ、突飛かつ奔放で女にだらしない男でしかない生き様だが、破壊と引き換えに創造があるかのように、そうすることでしか小説を書けないどうしようもないありようを、小栗が好演している。 その小栗が発する「大丈夫。君は、僕が好きだよ」をはじめとした強烈なセリフの数々は6月に予告編が公開されるや反響を呼び、今月の公開と同時に「特別映像/太宰のヤバすぎるセリフ集編」としてYouTubeで配信開始された。
女優陣のセリフも凄まじく余韻の残る作品
また、小栗はもちろん、女優陣のセリフも何気なく凄まじい。作家志望の静子役、沢尻が手紙にしたためた「私、愛されない妻よりずっと恋される愛人でいたい」という文学的匂いのする言葉も美しい響きの裏に強い想いを感じさせるが、太宰と入水自殺を遂げた“最後の女”富栄役、二階堂の「死にたいんです、いっしょに」というシンプルだが深く突き刺さってくるセリフも説得力にあふれ圧巻だ。その一方で、太宰が本当の自分をさらけ出すのは、宮沢りえ演じる妻・美知子にだけ。布団に寝転がり、呼び寄せ、幼子のように甘えきった姿を見せる。 蜷川実花ならではの映像美は、登場人物に的確に合わせた赤、紫、青などの色と照明の独特な使い方や、粉雪、水中の場面などにも発揮されていた。あまりにも印象的で、映画館を出てからも目に残像が残っている感じさえあった。しかしその映像の強さに負けない芝居とセリフの強さは、今作の大きな見どころだろう。作家・坂口安吾役の藤原竜也など、他にも実力派を揃えたキャストの厚みある布陣は魅力的だ。目にも耳にも心にも、大きな余韻が残る作品に仕上がっている。 (文・志和浩司)