入試問題は「核兵器並みの機密」。人民解放軍、特殊部隊、AIまで投入する中国のカンニング対策
中国の統一大学入試「高考」が6月7、8日に行われた。 教育部(文部科学省に相当)よると、2024年の全国高考には昨年より51万人多い1342万人が出願し、志願者数は過去最高を更新した。学歴格差社会の中国において、一発勝負の高考は文字通り人生を左右する一大事であり、受験生が安心して試験に臨めるよう警察や軍まで動員される。 【全画像をみる】入試問題は「核兵器並みの機密」。人民解放軍、特殊部隊、AIまで投入する中国のカンニング対策 高考へのプレッシャーの大きさは少子化の一員にもなっており、中国政府が2021年に「塾規制」を発動する事態にもなった。国民も政府も弊害の大きさを認識する教育・社会システムだが、中国に住んでいる限り距離を置くのは難しく、抜け道を探す受験生側と取り締まる当局のいたちごっこが続く。
不正防止、ハイテク対ハイテクの戦い
「高考」を1週間後に控えた5月末、警察当局のSNSアカウントが全国の会場に試験用紙を輸送する動画を投稿した。 試験用紙を積んだ中国郵政のトラックが連なって走行し、警察車両が先導している。「核兵器並みの機密」とのテロップがついた動画では、トラックの後方を人民解放軍の車両が守り、中国の衛星測位システム「北斗」が全行程を追跡していることも紹介された。 中国の大学入試で警察の存在感は非常に大きい。遅刻しそうな受験生をパトカーがサイレンを鳴らしながら送り届けるのはもはや風物詩で、今年の入試では道に迷った試験監督スタッフが110番して白バイに送ってもらった、という事例が確認できただけで2件あった。報道によると白バイの警察官は、スタッフのヘルメットまで用意して迎えに行ったという。 河南省では、金属を含んだ靴を履いていたことから試験会場への入場が認められなかった受験生のために、警察の特殊部隊(SWAT)が動いた。SNSで拡散した動画によるとSWAT隊員は受験生を近くの商店に連れて行ってスリッパを購入し、履き替えさせた上で試験会場に戻した。 金属が使われた靴では試験会場に入れないことも、SWATが投入されていることも異様に見えるかもしれないが、何事にも歴史と理由がある。 中国ではWi-Fiもスマートフォンも十分に普及していない2009年、大学入試で通信デバイスを使った不正が複数件発覚し、カンニングのハイテク化が幕を開けた。いずれも受験生と外部の協力者がグルになった組織的犯行で、うち1件は、高校教師グループが試験会場近くのホテル屋上に無線アンテナを設置し、試験中の教え子たちとデータをやり取りするという大がかりな不正だった。 以降会場では金属探知機による持ち物検査や通信の遮断が当たり前になり、ロイター通信によると2016年にSWATが試験会場に投入されたという。 そんな厳戒体制にもかかわらず、2021年には受験生がカーディガンの中に隠してスマホを持ち込んだことが発覚し、衝撃を与えた。受験生はスマホで試験問題を撮影し、宿題代行アプリに送信して回答を求めた。この時はアプリ運営会社が気づいて通報し、未遂に終わったものの、現場にいた試験監督は文字通り監督不行き届きとして責任を問われ、処分を受けた。 最近の不正対策はハイテクにハイテクで対抗する「矛」と「盾」の戦いとなっている。今年は2回の金属探知機と1回のスマート安全検査ゲートによる「2+1モデル」や、監視カメラを設置しAIで怪しい動きを分析する「カメラ+AI」など、多くの会場で最新技術が導入された。