進化続ける非常食 災害大国ニッポン、試練を開発の種に【けいざい百景】
必要は発明の母
災害時に簡単に食べられるよう設計された非常食。火や電気がなくても温められたり、食品アレルギーに対応したりするなど多様化が進む。地震や台風などに見舞われてきた災害大国ニッポンではその都度直面した試練を開発の種としてきた。非常食進化の変遷をたどり、今後の課題を探ってみた。(時事通信福井支局 唐澤初奈) 【ひと目でわかる】非常食備蓄時のチェックポイント 非常食が多様化する大きなきっかけとなったのが、1995年の阪神・淡路大震災だ。当時の非常食は乾パンや保存用のクッキーが主流で、避難生活が長期化し、味気ないものを食べ続けることが難しいという課題が表面化した。発生が冬だったため温かさを求める声も強まった。食品各社は「必要は発明の母」とばかりに開発を進めた。 尾西食品(東京)は、水やお湯を注ぐだけで炊いたようなふっくらしたご飯が味わえる「アルファ米」を販売しており、震災時に注目された。同社広報担当の森田慶子さんは「普段の生活で食べたことがないものは非常時でも食欲が湧かない」と話す。震災を機に種類を増やし、白飯や五目ご飯など計17種を販売している。 ホリカフーズ(新潟県魚沼市)も、阪神大震災で浮かび上がった課題を解決しようと商品開発に取り組んだ企業だ。出動した消防士や警察官から「冷たいものしか食べることができなかった」との声を聞いたことが、水で発熱する食事セットにつながった。
2011年の東日本大震災の際には、被災地でアレルギー対応の食品を入手する難しさが浮き彫りとなった。炊き出しや配給の食品では材料の詳細が不明なことが多かった。森田さんは「アレルギー成分が入っているのか分からず、食べることをあきらめてしまった人もいた」と当時を振り返る。この後、アレルギー対応の非常食が多く登場することになった。 17年の熊本地震は、ペット用非常食が販売される契機となった。家族同然のペットと共に避難できるよう備蓄の見直しが進み、防災グッズを販売するインターネット通販サイトを運営する相日防災(横浜市)は、長期保存可能なドッグフードなどの取り扱いを始めた。 21年の東京五輪の際には、訪日客の増加を見込んだ対策も求められるようになった。空港など外国人が多く利用する施設ではイスラム教徒も食べられる非常食の備蓄が必要になった。戒律にのっとり、豚肉やアルコールなどを使わない「ハラル」対応の非常食が登場。尾西食品はハラル認証の「ビリヤニ」と「ナシゴレン」を開発した。