「時間」を改めて意識させるアート個展に行ってきた
"今"という時間はどんなものなのか
今回新作として展示され、個人的に1番感銘を受け、重要だと感じたのが『時間(タイム)のT』という作品です。 『時間(タイム)のT』はアニメーションや実写などが混在するビデオインスタレーション作品であり、今回の展示会の核となるテーマでもある時間について語られています。 約1時間で構成された作品のなかには、科学や自然的なモチーフ、幻想的で超自然的なモチーフ、歴史や史実のモチーフといったさまざまな要素が含まれ、いずれも時間を扱ったものとなっています。 さらに興味深いのは、この映像は2枚のスクリーンが重なるように構成されていて、手前は透過スクリーンとなっています。この2枚のスクリーンには、同じ映像が流れるわけではなく、たとえば奥のスクリーンにはアーカイブ映像が流れ、手前のスクリーンにはアニメーション化された映像が流れたり、といったかたちで映像が映されます。 また、手前のスクリーンにしか映らないものが奥のスクリーンにも透けて映ったり、奥のスクリーンの映像は焦点が合っていない、などさまざまな映像の組み合わせが生まれます。こうした重複と差異が時間というものをまさに表わすようにも思えました。 こうした構造により、同じ時間というテーマを持ちながらも、全く異なっていたり、別の側面を持つ2つの物語を見ているような不思議な感覚をおぼえ、その作品性に魅了されます。時間というものが、普遍的で定量的であるように感じる一方で、相対的で不規則なものでもあると感じられる非常に示唆に富んだ作品だと思います。 さらに、この『時間(タイム)のT』内で扱われたいくつもの短いループ映像の断片が会場のあらゆる場所に流れていて、それらは何気なく過ぎていく時間やあまりに規則的に経過するため意識しないような時間、あるいは地球の自転・公転など人間が認識しづらい時間などが映されています。 こうした時間を改めて捉えようとする映像を見つめる時に、私たちもその時間を意識するような、深い内省にもつながるようなものになっていきます。 なかでも私は、こちらのフルフェイスを被った人がバイクを走らせる映像の『オードバイ(空虚)』という作品を長い時間眺めていました。 ヘルメットに映るのはこれから向かう風景、後ろに映るのは過ぎ去った風景、そして正に通り過ぎようとしている人が一つの画面に映し出されています。それぞれ未来と過去、そしておよそ認識できない"今"という時間を同時に捉えている作品だと感じます。 この作品を眺めている今をどう捉えられるのだろうか、とモニターの前で私はしばらく考えていました。 と同時に、観た人がそれぞれの作品で描かれる時間をどのように感じ、それを観ている時間をどう捉えるのだろうか、と考え、この『時間(タイム)のT』に秘められたさまざまな解釈の仕方が、時間のあり様なのかもしれないとも感じました。 そして最後に、これまで紹介してきたホー・ツーニェンの作品は、展示されている会場内で常に止まることなく流れ続けるように会場全体が構成されています。私は、会場内のさまざまな作品を観るために反時計回りに会場を回っていきました。すると、最後の展示スペースを過ぎるとまた入口に戻るようになっています。そしてもう一度最初のスペースに入っていくと違う作品(あるいは同じ作品の違う一面)を観ることになります。 そうして何度も入口と出口を行き来して、会場を何度も回っていくことになるのです。これ自体も、自分が進む時間と会場内に流れる時間の重複と差異を表わすようなものだと感じ、最後に出る時に自分が思うよりもずっと長い時間そこに滞在していたことに気がついたのでした。 ホー・ツーニェン エージェントのA 会期:2024年4月6日(土)─ 7月7日(日) 開館時間:10:00─18:00(展示室入場は閉館の30分前まで) 会場:東京都現代美術館 企画展示室 B2F 観覧料:一般1,500円(1,200円) / 大学生・専門学校生・65 歳以上1,100円(880円) / 中高生600円(480円) /小学生以下無料 Source: ホー・ツーニェン エージェントのA
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